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第115話

「須藤様、勝手いたしまして申し訳ございません」  滝川の真摯な声が、主へと向けられる。 「お前が詫びることは何もない」 「……はい」  滝川の安堵と喜びの声。佑月は内心で良かったとホッとした。もしかしたら、先に上司へ連絡してからにしろと、言われてしまうかもしれないと心配していたからだ。須藤もさすがに、佑月に付き合わされた滝川を怒ることはしないようだ。 「あの……そろそろ離してください」  抱きしめられている事が、だんだん居た堪れなくなってきて、佑月は須藤の腕の中で身じろいだ。  須藤は何故か直ぐには離してくれず、やたらと時間をかけて腕を緩めていく。早くしてくれと訴えたいが、今はなるべく須藤の気持ちを無視しない方がいいと思った。佑月は辛抱強く待つが、しかし須藤は何故すぐに離してくれないのか気になり、佑月は顔を上げた。 「っ……」  須藤の漆黒の目とぶつかり、佑月は一瞬息を呑む。何かと葛藤しているかのような憂いと、少しの安堵が混ざっているような眼差し。そして何とも表現し難い熱が籠る目。この目をどこかで見たことがある。  佑月の意識がフラリと再び途切れそうになる中、須藤の頬に触れようと、その手が伸びていく。  その時、背後で音もないほどに静かに閉じられたドアの音が、佑月の中でやたらと大きく響いた。 「あ……」  意識が覚醒した佑月は、慌てて須藤から離れた。 「あ、あのお腹は減ってませんか?」  目を合わせられず、やや俯く佑月に須藤は「少し」と返答する。 「簡単なものですみませんが、今から作りますのでちょっとお待ちください」  佑月はこれ幸いと、キッチンへ逃げ込んで行った。顔が少し熱くなっている。赤くなっているところを見られていなければいいがと、佑月は強く願った。  以前も突然と意識の解離が見られた。それも須藤と接近している時に。しかも意識のない自分は、自ら更に須藤に身を寄せる真似をしていた。さっきも自ら須藤の頬に触れようとしていた。 (なんで……?) 「佑月」 「は、はい!?」  心臓が口から飛び出るのではと言うほどにビックリして、佑月の声が大きくリビングに響いていった。須藤が少し驚いたように目を開かせている。 「驚かせてすまない。買い物袋を滝川から受け取っていたからな」  須藤は手に持っている三つの買い物袋を、少し掲げて見せた。 (いつの間に!) 「すみません、ありがとうございます」  急いで須藤から買い物袋を受け取り、佑月は冷凍するものなど分けて冷蔵庫へと入れていく。 「で、出来たら持っていかせて頂くので、お部屋で横になっていてください」 「ここで待っているが、そんなに慌てなくていい。ケガをしたらどうする」  須藤が傍へとやってくる。それに反応して、佑月の身体はビクリと過剰な程に跳ねてしまった。

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