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第116話

「大丈夫です。慌てませんので、須藤さんはソファに座ってて下さい」  佑月はそれ以上近づくなと、警告するように手で制して、リビングのソファへと視線で促した。感じ悪い態度になったが、またさっきみたいな事になるのが恐かったのだ。  須藤は少し不満そうに眉をほんの僅かに寄せる。だが今はまだ佑月との仲は完全に修復されていないせいもあり、須藤は大人しく言うことを聞くことにしたようだ。正直に言って、同じ空間にいるのは少し気持ちが安定しない。どうしても態度もぎこちなくなってしまう。  須藤はどんな時でも、自分に正直に言動で示してくる。それを心から返せるようにいつかはなるのだろうか。いつまでも子供のように怒っているわけにもいかないことは、佑月だって分かっている。時間が解決してくれる事もあるが、佑月にも非があると感じた事には、自ら距離を縮めていく必要もあるだろう。激怒はしたが、完全に須藤のことは嫌いになれない佑月がいるのも確かだからだ。  とりあえず焼き飯をさっさと作ってしまおうと、準備を始めた。須藤の視線を感じるが、絶対にそちらには顔を向けないよう気をつけた。緊張が更に高まってしまうためだ。  溶き卵をフライパンで軽く炒め、ソーセージや玉ねぎ、人参を細かく切ったものを合わせて、最後にご飯を入れる。味付けはうどんのスープの素を入れて仕上げた。後は卵スープを作ってお椀によそって、トレイに乗せれば出来上がりだ。 「お待たせしました」 「ありがとう」  焼き飯とサラダ、スープとお茶をガラステーブルに並べると、佑月は一礼して下がろうとした。 「佑月、お前の分は?」 「あ……俺の分はご心配なく、おにぎりを買ってますので」 「おにぎり……?」  須藤の眉が怪訝そうに歪む。 「はい、だから温かいうちに食べてください」  そそくさと背中を向けたが、直ぐに再び須藤から声がかかる。 「せっかくだから、一緒に食べないか?」 「え……」  一瞬、断りたいと思った。だが佑月は直ぐに思い直す。ここで断ると、きっと須藤の気持ちは少なくとも沈んでしまうのではと思ったからだ。恋人が傍にいられない須藤のメンタルケアのためにも、今日は出来るだけ要望は聞くことに決めた。 「そうですね……。おにぎり取ってきます。先に食べててください」 「あぁ、いただきます」  佑月はキッチンカウンターに置いていたおにぎりを二個持ってきて、須藤の正面からは少しずれて腰を下ろした。 「美味いな」 「……良かったです」  焼き飯を食べさせておきながら、佑月は内心で似合わないなと少し笑ってしまっていた。きっと焼き飯など初めて食べたに違いない。文句も言わずに──言えないのかもしれないが──嫌な顔を見せずに食べてくれる事はやっぱり嬉しいものがある。 「佑月はそれで足りるのか? 足りないなら遠慮なく何か頼め」 「い、いえいえ、大丈夫です! 昼はいつもこんな感じなので」  スーパーの手作りおにぎり。コンビニサイズより少しボリュームがあって具沢山だ。密かにここのおにぎりは好きで、たまに買っている。  

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