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第117話
須藤はまだ何か言いたげに佑月を見ているが、佑月は気付かないふりをして、おにぎりを頬張った。須藤は諦めたようにスプーンを持つ手を動かす。
上下黒のスウェット。須藤は何を着ても似合う。きっとヨレヨレのTシャツを着ていても様になるはずだ。
佑月がチラチラと須藤を盗み見しながら食べていると、ふと須藤の口角が緩く上がった。
「……っ」
見ているのがバレている上に笑われて、佑月の顔は一気に熱くなった。
「な、なに笑ってるんですか……。嫌なら文句言ってもいいんですよ。『何ジロジロ見てんだ』とか」
「お前に見られるなら大歓迎だ。好きなだけ見たらいい」
「……」
佑月は暫く目が点になる。
(……え、今なんて言った? 俺に見られるなら大歓迎で、好きなだけ見たらいい……え?)
「すごい自信……」
心の声のはずだったが、口に出してしまっていたようだ。須藤が少し笑う。
「別に自信があって言ってる訳ではないんだが、何もコソコソする必要はない」
「は、はぁ……」
コソコソと見られるのは、確かに嫌な時もあるが、だからと言って正面から見てます、と見られるのも佑月なら嫌だ。
退院してからもうすぐ一ヶ月が経つが、須藤のことは少しは分かったようで、実際はまだ分からないことばかりだ。一番分からないのは、須藤にとって佑月の存在はどんなものなのかだ。友人だと本人含め、周りも言うが、友人にしては友人のラインを越えている気がする。甲斐甲斐しく風呂に入れてくれたり、やたらと距離が近かったり。そして今回のこともそうだ。
「今回のこと……ほじくり返すわけじゃないんですけど、どうしても聞きいことがあります」
須藤がすべてご飯を平らげてくれたタイミングで、佑月は口を開く。
「あぁ。何でも訊け」
須藤は真摯に頷く。今回の事が原因で体調不良にさせたけど、次の一歩へ進むためにはすっきりとさせておきたい。お互いのためにも。
「貴方は俺に、村上さんに対して気持ちに応える事が出来るのかと仰いました。俺を混乱させる負の種は摘み取っておかないととも。俺と貴方は友人なんですよね? それなのに俺の友人関係にまで口を出して、まるで管理してるような真似。どうしてそこまでされるんですか? 俺たちって対等ですよね?」
「あぁ、もちろん対等だ。ただどうしても、お前に降りかかる面倒事などは、排除したい」
須藤の力強い目に佑月は少し圧倒されてしまう。だが見つめ返すその漆黒には、何かもっと深い意味がありそうに思えた。
「俺ってそんなに頼りないですか? 須藤さんからしたら十も歳下の俺じゃ、そう思ってしまうかもですが。でも、対等な友人だと言うなら、越えてはいけないラインがあると思うんです」
「頼りないのではなくて、俺がそうしたいのだ。年齢なども関係ない。その友人のラインとやらも、俺には正直分からない。ただ、例えお前に嫌がられようとも、俺の意思は変わる事はない。佑月が困っていたり、俺がそう判断したら今回のようなこともする」
「……そう……ですか」
佑月は無意識に胸を押さえていた。
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