119 / 198

第119話

「ホラーじゃないですよ。かなり古い恋愛映画なんですが、これはめちゃくちゃ泣けます」 「ふーん」  全く興味がないような返事。そういう反応されると泣いて欲しいという気持ちも湧いてくる。 (でも、須藤さんは絶対泣かないな)  面白くないなと思いながら、佑月は映画を流した。  【ゴースト/ワシントンの幻】結婚まで考えていた幸せなカップル、サムとモリー。ある日、デートの帰り道で突然サムが暴漢に襲われ、命を落としてしまう。ゴーストになってしまったサムは、彼女に気づいて欲しくて、霊媒師に頼るなどして悪戦苦闘する。そこから物語は陰謀や、裏切りにモリーは巻き込まれながら大きく動いていく。二人の強固な愛に、ラストは涙無しでは観られない、最高のラブロマンスだ。  佑月は大学の時に一度だけ観たことがあるのだが、何故か今日急に観たくなった。男二人で観る内容でもないのに。半分は須藤を眠らせたいこともあるのだが。  ストーリーを知っているせいで、冒頭から佑月はもう泣きそうになっていた。ソファの隣に座る須藤は、佑月が用意したお茶を飲みながら、画面よりも佑月を見ている。 「須藤さん、俺なんか見ても、何のストーリーもありませんよ。画面見てください。観てくれないなら俺は部屋に戻ります。お一人で最後まで観てください」  何の脅しにもなっていないなと、佑月は自分の発言に呆れていたが、須藤は顔を画面に向けて長い脚を組んだ。どうやら従って観てくれるようだ。 「ぅ……っ……」  佑月は号泣していた。ティッシュで涙に濡れた顔を吹き、鼻をかむ。 「佑月……大丈夫か?」 「うぅ……ムリ……胸が痛い。なんで須藤さん寝てないんですか……じゃなくて泣いてないんですか」  拭いてもボロボロと涙がこぼれてくる。感動してこんなに泣いたのは久しぶりだ。数日前に、哀しみで泣いた涙と、当たり前だが全然違う。 「感動もしてないんですか?」  佑月がそう問うと、須藤は少し考えるように眉を眉間に寄せていく。 「感動……か。そうだな、普段なら何とも思ってなかっただろうが、今は妙にくるものがあるな」  言葉通りに、滅多に見ることが出来ない須藤の憂いた顔がそこにあった。佑月は、今は深い眠りについているという須藤の恋人を想って、胸が痛んだ。 「愛してる人と死に別れるって……俺は辛すぎて一緒に死にたいって思うかもですね。とは言っても、俺って実は大恋愛とかした事なくて……」  まだ恋愛においては、狂おしいほどの恋情を抱いたことがない。交際していても、どこか一歩引いていたし、執着さえもなかった。 「佑月は恋人が死んだら一緒に死ぬのか?」 「分からないです。でも映画のような恋愛をしていたら、きっと愛する人がこの世にいないなんて現実、受け止めきれないかもしれないです」 「そうだな……。それはよく分かるな」  須藤の切なげな目が佑月に向けられるが、それは恋人を想ったものだろう。王様須藤にこんな目をさせる人がいる。須藤に同調しているのか、佑月の胸は更に痛みが増していった。

ともだちにシェアしよう!