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第121話
夕飯は栄養のあるものを考えて、小料理屋で学んだ経験を存分に活かして作った。須藤は美味しいと言って全て平らげてくれた。
軽い朝食なら退院してから作ってはいた。左腕が使えないせいもあり、まともな料理は作れなかったが。とにかく久しぶりに腕がふるえて、佑月も満足していた。
夜が更けたベッドの中で、佑月は仰臥した状態で天井を見つめていた。
須藤に抱いていた怒りが、今日一日須藤と一緒にいたせいか、だいぶ収まりつつある。
村上が傷ついたことは決して忘れることは出来ないが、村上自身はきっと前を向いて進んでいくだろう。応えられないくせに、いつまでも村上の事を考えることも、村上は望んでもいないに違いない。
とにかく自分も気持ちを切り替えないとならない。佑月はそう決意しながら、精神を酷使したせいか、直ぐに深い眠りへと落ちていった。
朝は六時に起きて、顔を洗って、歯を磨いて軽く身支度を整えていく。鏡に映る自分の顔は、よく寝られたお陰か、顔色も良くなって、肌艶も戻った気がする。
もう梅雨入りをしたとテレビでも報じていた通り、今日は朝からシトシトと雨が降っている。少しジメジメとして鬱陶しい朝だ。
佑月はリビングに入るとエアコンを除湿モードにして、キッチンへ向かう。朝食の準備をしようと冷蔵庫を開けようとした時、リビングの扉が開いた。
「あ……おはようございます。早いですね」
「おはよう。今日は早く出ようと思ってな」
「そうですか……」
佑月は須藤の様子を素早くチェックした。顔色は昨日よりもいい。表情も少しスッキリしたように感じる。佑月は少しホッとした。
「でも朝食は食べてくださいね」
「あぁ、もちろんそのつもりだ」
須藤はそう言って、顔を洗いに行くのか、一旦リビングから出て行った。佑月は直ぐに調理に取りかかった。
「やっぱり美味いな」
髪を整え、ワイシャツにベストを身に着けた完璧な姿で、須藤は言葉通り美味しそにスクランブルエッグを食べている。
「やっぱり? それって記憶を失う前に俺が作ってた……とか?」
「そうだ。特にこれは俺が気に入っているものだ」
懐かしむような切なさを孕んでいるが、嬉しそうが勝っている、そんな表情だ。
いい物ばかり食べてるはずの須藤が、気に入って美味しいと言ってくれるのは、やはり佑月も素直に嬉しかった。
「そう……ですか。じゃあ、また作ります」
少し恥ずかしくなって、佑月はボソリと小さく言うが、須藤にはちゃんと聞こえたのか「楽しみにしてる」と言う。佑月は僅かに下を向いたまま頷いた。
洗い物を終えてリビングに戻ると、須藤がジャケットも羽織って三つ揃いでキメた姿で入ってきた。
「須藤さん、お身体の方はどうですか? 本当に大丈夫なんですか?」
「身体は昨日一日休んで、栄養のある物を食べさせてもらったお陰で、すっかり元通りだ。お前まで仕事を休ませる羽目になったが、感謝してる」
スーツ姿で佑月の目の前に立つ須藤は、昨日までのオフの須藤とは全く違う。
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