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第123話

「ここが何でもしてくれるって有名な、何でも屋さん?」  陸斗が来客用ソファを女に勧めると、女は一瞬汚らわしい物を見るように眉をひそめた。  確かに女から見れば小汚いソファに見えるだろう。佑月は内心で苦笑いをするしかない。  いかにも金持ちな女という出で立ち。豊満な胸を惜しげも無くさらして、ベージュのタイトなワンピースで身体のラインも強調させている。バッグにパンプス、アクセサリーなど身につけている物が全て、簡単には手は出せない高級ブランドものだ。 「ご依頼でしたら、私がお伺い致します」  佑月が女の傍へと進み出ると、女は一瞬驚いたように真っ赤な唇を開く。そしてサングラスを外して、佑月をまじまじと見つめてきた。露骨にじろじろと見られることはよくあるが、やはりあまりいい気分にはなれない。しかし顔には出さないよう、女に再度ソファを勧めた。  女は少し呆然としたような表情で、今度は素直にソファに腰を下ろした。 「貴方……とても美しいわね。男でここまで綺麗な人は、あの人以外で初めて見たかも」  〝あの人〟とは誰かは分かりようもないが、女の中では、佑月の容姿は上位にくるようだ。  女は佑月に伝えると言うよりも、思わずもれた声のようであったため、佑月は少しだけ微笑んでソファに座った。  佑月を褒めたこの女の容姿も、女優に引けを取らない……いや、それよりも上回る程の上等と言える女だった。息を呑む美貌とは、目の前の女の事を言うのだろうと、佑月は秘かに圧倒されていた。陸斗、海斗、花ももれなくだ。  女はエアウェーブのかかった長い髪を掻き上げ、細い脚を組む。そして元女優の名前がついた高級バッグから、女は何かを取り出してガラステーブルへとそれを置いた。 「貴方に頼みたいのは、この(ひと)のこと」 「失礼します」  佑月は女に断りを入れてから、写真と思しき一枚の紙を手に取った。  そしてそこに写る男を見て、佑月の思考は一瞬止まる。 「この方は……」  佑月の異変に気づいた三人が、佑月の傍へと急いでやって来る。そして写真を覗き込んだ三人の口から、驚きの声が上がる。 「あら、皆様ご存知なの? やっぱり何処の界隈でも目立つ男ね……須藤仁は」  色っぽく艶のある唇が〝須藤仁〟の音で形作られる。 「……存じ上げております。その方に対して、どのようなご依頼を?」  佑月の内心は激しく動揺していたが、顔には絶対に出さぬよう気をつけた。しかし、自分の顔の表情など、鏡がないから確認など出来ない。分からないところが怖かった。女と須藤。楽しい内容ではないことは明白だろう。 「私ね、一年居たニューヨークから昨日帰ってきたばかりなのだけど、彼の電話が繋がらなかったのよ。それで色々調べたら番号が変わってるらしいじゃない。それだけならまだいいのよ……」  女は柳眉を寄せて、少し不満そうな顔を見せた。 「どうやら、仁は男を囲ってるようなのよ。有力な情報筋から聞いたから確かよ」  今度は得意げな顔を見せる。上等なルックスだが、感情が全て顔に出てしまう(たち)のようだ。

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