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第124話

「男を……囲っている……ですか」  気をつけていた表情も無駄だったかのように、佑月の眉間にはシワが寄っていた。 「えぇ。私も信じたくはない。言っておくけど、仁が男を相手にする事には、何ら不思議には思わないのよ? 彼はとても魅力的で美しい男だもの。寄ってくる男女も数知れずだから。仁は選ぶ側の人間ですもの」  女の熱の入った言葉から、須藤のことをかなり特別に想っていることがよく伝わってくる。  さっき佑月の容姿を褒めたとき〝あの人以外で〟と言っていたのも、須藤のことだろう。女の言う通りに、佑月も須藤程のいい男は見たことがない。 「特定の人間を作らない。それが須藤仁だったの。仁に見てもらいたい人間ばかりの世界では、それが唯一の平等性として保たれていたのよ。それがここ一年で、ある男に入れ込んでいると聞いて。しかも全ての関係を切ってしまったって。これほどショックなことは無いわ……」  佑月は、身近にいる人間の調査をしなければならないのかと、少し憂鬱な気分になった。 「それでお客様のご依頼というのは?」  負の空気は、陽の空気より引き込まれやすくなる。それをなるべく断ち切りたくて、佑月は先を促した。 「男のことを調べて欲しいの」  やはりそうかと、佑月は内心で頭を抱えた。 「お調べすることは可能ですが、犯罪の加担の要求はもちろんお断りいたします。また、犯罪や人道的に外れることをなさったと判断した場合、すぐさま警察に通報いたします。それらをしっかり守って頂けるなら、貴方のご依頼はお受け致します」 「え……えぇ……もちろんよ」  佑月の気迫に押された女は、頬を僅かに引き攣らせている。これくらいしっかり言わないと、こういう類いの依頼は、後が怖いのだ。その時は納得してくれても、後で気持ちが急変することもある。依頼内容や、依頼主の見極めがとても大事な仕事でもある。 「大事な質問なのですが、男性を見つけてどうされるのですか?」 「顔が見たいだけ……。この私よりも美しい男なのか。納得出来れば私も諦められる。しょうもない男だったら許せない」 「その言い方だと、須藤さんをも否定なさってる事になりますよ? 須藤さん自らがお選びになって、傍にいらっしゃるってことを忘れてはいけません。男性を見極める判断など、よそ様がすることではありませんので」  須藤の大事な人が男性という事実は、佑月をとても驚かせた。だが須藤の恋人への想いが、本当に慈しみと愛情が注がれている事を知っている。でも今、その相手は……。 「あの……佑月先輩、お話し中に口を挟んで申し訳ないんですが、その……須藤さんの恋人を探されるということですが……やめた方がいいです」  佑月は瞠目して陸斗へと顔を上げた。そして海斗、花へ視線を向けると、三人は同時に頷いて見せてきた。とても深刻な目をした三人。  そこで佑月は事の重大さを今更気付いた。

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