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第128話

 須藤のマンションに帰ってきた佑月は、直ぐに着替えを済ませ、夕飯の準備を始めた。須藤はきっと遅いだろうから、胃に負担がかからないように、消化のいいものを作ることにした。  料理を終えると、佑月はリビングのソファに腰を沈めた。革張りだが、身体を包んでくれるような座り心地は、やはり高いだけはあるのだろう。疲れた身体で座ると、寝てしまいそうになる。そしてふと昼頃に訪れてきた女の事を思い出す。 「あの人と須藤さんは昔付き合ってたのか……?」  あのルックスにあの経済力だと、女も男も選り取りみどり。それはそうだろうなと佑月も納得する。しかし、いざ須藤と関係があったであろう人物をリアルで見ると、何かモヤモヤとするものを感じた。現に今もモヤモヤし始める始末だ。 「なんなんだよ、一体……」  訳の分からないものをどう処理をすればいいのか分からず、佑月は頭を抱えた──。 「……き……おい」 「ん……」  肩を優しく揺さぶられ、佑月の意識が覚醒する。 「あっ、須藤さん、おかえりなさい」  佑月は慌てて腰を上げる。帰ってきたばかりのようで、須藤はまだスーツのジャケットを脱いでいない姿だ。  佑月はチラリと時計を確認する。 (十一時か、結構早く帰れたんだ) 「こんな所で寝たら身体痛めるぞ。寝るならせめて横になれ」 「はい、今度からはそうします」  須藤は少し口元を緩めて、ジャケットを脱ぐ。疲れているだろうに、それを表には決して出さない。恋人の前だと、須藤も少しは出すのかもしれない。いま目の前にいるのが、自分で申し訳なくなる。 「須藤さん、夕飯は食べました?」 「いや、食べてない」 「じゃあ、作ったので食べてください」 「あぁ、もらおうか」  須藤の返事に気を良くした佑月は、急いでキッチンへ向かった。メンタルの支えになれないなら、体調面のサポートだけは自分が管理したらいい。昨日須藤に直接言ったように、栄養のあるものを毎日食べて欲しいのだ。  今夜のメニューは、タラのムニエルと、柔らかく煮た野菜豊富なポトフ。小松菜とツナのごま油炒めだ。 「佑月、まだ食べてなかったのか?」  ガラステーブルに二人分並べる佑月に、須藤は驚いたように問う。 「はい……色々考え事してたら寝てしまってたので」  苦笑いになって言う佑月に、須藤は少し眉を寄せる。 「考え事?」 「あ……えっと仕事のことで……」  今はまだ須藤も、佑月とのわだかまりを気にしてしまうかと思い、本当の事を言おうとした。しかし、考え事というのも昼間の女のことだ。須藤に関わること。だから佑月は咄嗟に続きを飲み込んだ。 (危な……) 「効率よく仕事をこなすにはどうすればいいかなとか。あ、ほら、せっかくのご飯が冷めてしまいます。食べてください。いただきます!」  佑月は早々と話を切り上げ、手を合わせた。そんな佑月を須藤はしばらく見ていたが、諦めたのか、須藤も手を合わせて「いただきます」と言った。

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