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第129話

 遠慮なく訊けたら佑月も訊いている。ただ内容がかなり繊細過ぎた。恋人が元気で、須藤の傍に常にいるような相手なら良かったのだが。 「腕や頭の傷はどうだ?」  佑月が箸を置いたタイミングで、須藤が訊ねてきた。須藤に訊かれるまで怪我のことなど、ここ最近では頭に過ぎる事がなかった。それほどに痛みはほぼないと言っていい程だ。 「もう全然痛みも無いです。リハビリはまだした方がいいのかもしれませんけど、何ら不自由なく腕も使えてますし。だから、その説は色々と本当にありがとうございます……っ」  ふと、突然あの風呂場での出来事を思い出し、佑月の心拍数は爆上がりになる。極力思い出さないようにしていたのに、なぜ今になって思い出すのか。 チラリと佑月は須藤の長くて綺麗な指を視界に入れた。あの指が自分のモノに絡みついて……。 (ダ、ダメだ、なに余計に詳細に思い出してんだよっ)  その須藤が何故か徐ろに腰を上げる。そして佑月の傍へと回ってきた。 (……え?)  佑月は緊張のせいで身動ぎも出来ない。ただ須藤の気配は強烈に右後ろから感じていた。 「っ……」  後頭部に触れられる指。所々感覚が無いところがあるが、優しく触れられているのが分かる。 「す……須藤さん?」 「こんな風に、佑月の身体に傷を残して行く者が、やはり許せないな」  小さく呟かれた言葉ながらも、須藤の強い怒りがビリビリと佑月に伝わってくる。 「須藤さんって、まるで恋人のように心配してくれるんですね」  佑月は暗くならないようにと、笑顔で須藤へと振り向いた。 「ぁ……」  須藤の苦しみの濃い目とぶつかる。この目を何度も見てきた。佑月を自分のことのように、苦しみ思いやってくれている目を。自分がその恋人なんではと、錯覚してしまいそうになる。 (さ、錯覚って何をっ……) 「あ! は、早く片付けてしまわないと、落ちにくくなる!」  佑月はほぼ棒読みになりながら、二人分の食器をドギマギしながら重ねていく。 「佑月……」 「は、はいー!?」  突然須藤に手首を掴まれ、佑月は驚きすぎて無駄に大きな声を上げてしまった。恥ずかしさで顔が一気に熱くなる中、佑月は掴まれている手首を凝視する。  スルリと親指で撫でられる感触。そこから一気にゾクリと痺れが走っていく。嫌悪感とは全く違う感覚に、佑月は戸惑いながら須藤の顔を見上げた。  熱がこもる様な、この目も何度か見たことがある。どうしてそんな目で自分を見つめてくるのか、佑月は勘違いしそうになっていた。 (か、勘違いって……なんで勘違いするんだ。なんの勘違いだよ) 「あの……」  離してほしいと伝えようとした時、須藤の脱いだジャケットからバイブ音が聞こえてきた。しばらくお互いに見つめ合っていたが、あまりにもしつこく鳴る音に、須藤は不愉快な顔を隠さず、短く息を吐いた。  須藤は、名残惜しそうとも言えるような緩慢さで、佑月の手首を離していく。

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