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第132話
「なんでも言え。俺が全て解決してやる」
堂々と須藤は言う。この自信は何処から来るのか分からないが、須藤が言えば、何でも解決してくれるのではと思ってしまう。それほどに須藤の心はブレない強さがある。
「頼もしい限りです。でも須藤さんでも解決出来ない事もあるんですよ……」
「そうか?」
まるで納得していない顔。佑月は呆れるどころか、益々頼もしい男だと思ってしまう。これも須藤マジックか。
「だって、もし俺が不治の病に罹ったって言っても、解決出来ないでしょ?」
「そうしたら、必ずいい医者を見つけて、必ず完治させる。何か臓器が必要なら、血が必要なら、俺がお前に全てやる。だから何も心配しなくていい」
「……」
とんだ殺し文句だ。現実的に考えたら無理な事もある。血液型だって同じじゃないと駄目だ。でもそんな現実的な事はいいのだ。須藤の大きな気持ちが嬉しいから。
恋人でもないのに、ここまで言ってくれる須藤の胸の裡が知りたくて仕方がない。〝全てやる〟など、なかなか言えない事だと思った。だいたい口先で言うことが多いが、須藤の場合は口先で言う男ではない事を知っている。だから余計に胸に響いた。
「どうした? なぜ泣く?」
「わ、分からないです……なんか、勝手に涙が出てくる……っ」
涙を拭おうとしたとき、ムスクのような香りが鼻腔を蕩けさせる。そして身体を包み込まれる温もり。須藤に抱きしめられていた。
「こうしたらどうだ? 少しは落ち着くだろ」
落ち着くし、落ち着かない。もっと近づきたいのに、近づけない。嬉しいのに苦しい。佑月の涙は止めどなく溢れてくる。
「男に抱きしめられても、あまり嬉しくないかも……」
可愛げのない事を言ったが、通常男同士ならこう言うであろうと思ったからだ。
須藤から少し笑ったような空気が伝わり、佑月は少しホッとした。
「もし、俺が……好きな人の事で悩んでたら解決してくれるんですか?」
佑月は堪らずそう口にしていた。須藤なら直ぐに返事をすると思っていたが、なぜか須藤の身体が一瞬固くなったような気がした。
「須藤……さん?」
なかなか返事がないことにも怪訝に思い、佑月は顔を上げた。そこで須藤の表情 に、佑月は息を呑む。初めて見せる表情だ。眉間には深いシワが寄っているが、どこか心ここにあらずといった何とも言い難いものだった。
「すど……」
「……好きな奴がいるのか?」
「え……あの……っ」
須藤の手が佑月の両腕を掴む。だがその力が思いの外強くて、佑月は思わず眉根を寄せてしまう。佑月を映す漆黒の目も、困惑の色に染まっている。
佑月は大きく戸惑いながらも、目の前の好きな男を見つめた。全く違う二人の感情は、視線でも交わることがない。それがとても寂しくて、また涙が出そうになる。佑月はそれをグッと堪えた。
「……いくら須藤さんでも、人の心まではどうにも出来ない時があります。って、そんなに暗くならないでくださいよ! そもそも何で須藤さんが暗くなってるんですか」
佑月は極力明るい声を出して笑いながら、須藤の腕を柔く叩いた。
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