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第135話《再び接触》
◇
今朝はどちらも口数が少なく、会話が弾むことがなかった。須藤と顔を合わせることに緊張していたこともあったが、少し気になる事があったのだ。それは須藤に元気がなかったように思ったこと。そちらの方が気になって、昨夜のことを気にしている余裕もなくなっていた。
(どうしたんだろ……)
佑月は仕事場である事務机に座って、パソコン画面を見つめながら、首を傾げる。
須藤は感情を表 には決して出さない男だ。だから目で見て元気がないと分かったわけではない。だけどここ最近身につけた、須藤の目から感情を読み取るスキル。その目に覇気がないように感じたのだ。そうと分かっておきながら、佑月は須藤に訊ねることもしなかった。須藤は常に佑月の変化に気付き、気にかけてくれていると言うのに。何かあったのか訊ねようともしなかった。
(俺って本当……最悪だな。自分のことばっかりだ)
自己嫌悪に陥っていると、そこへ佑月の意識を遮断するように事務所に電話が鳴り響いた。
佑月は自分を叱咤するように頬を叩くと、陸斗ら三人が驚いたように佑月を見た。佑月はごめんと片手で拝むポーズを取ると、直ぐに自身の机にある電話の受話器を上げた。
「お電話ありがとうございます。何でも屋【J.O.A.T】ジョートでございます」
『昨日そちらに伺った者だけど、対応して下さった綺麗な男性はいらっしゃる?』
女の声がそう告げる。事務所には日に数人は訪れてくれるが、この話し方は聞き覚えがあり過ぎる。直ぐにあの女だと分かった。
「昨日はご来所頂きありがとうございます。対応させて頂いた者ですが、名前を名乗らず、申し訳ございませんでした。事務所所長の成海と申します」
〝綺麗な男性〟を認めたような名乗り方になってしまったが、そこを電話口で否定しても時間を取るだけで、女もそこには拘ってはいないだろう。だから敢えて佑月は聞き流した。
『貴方にお仕事を頼みたいわ』
女はそう言って詳細を告げていった。
そしていま佑月は、とある都内の高級ホテルへと赴いていた。一般人が易々と泊まれるようなホテルではない。
佑月は僅かな緊張を纏いながら、用意されたタキシードを身に付け、髪もわざわざヘアメイクの手によって整えられた。これらは全て女が用意してくれたものだ。
女の依頼は、政財界、芸能界など、あらゆる富裕層が集まるパーティでのパートナーを務めて欲しいというもの。どういうつもりかは知らないが、仕事として依頼されてしまえば、よっぽどの事がない限り断れない。断る余裕もないのが現状だが。
人が多く集まる場では、佑月を護衛する者は大変だと気に掛かってしまうが、佑月自身も細心の注意を払っていくしかない。
「あら、やっぱり美しいわ。貴方は何を着ても美しいけど、身なりを整えると更に美しさに磨きがかかるわね」
「ありがとうございます」
メイクルームに入ってきた、依頼人である犀川明日美 と名乗った女に、佑月は軽く頭を下げる。
「では、参りましょうか佑月。貴方に会わせたい人がいるのよ」
サラッと佑月を呼び捨てにし、犀川は妖艶な笑みを佑月へと向ける。美貌を際立たせる深紅のドレス。背中は大胆に際どいウエスト部分まで開いている。いわゆるバックレスドレスというものだ。胸元には豪華なダイヤが散りばめられたネックレス。指にも耳にもダイヤモンドが煌めいている。
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