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第136話
これだけ豪華な装飾があっても、女の美貌の方が目立つ。本当に稀に見る美人だ。
佑月は腕を犀川が掴みやすい形にすると、犀川はスマートに佑月の腕に手を添えた。
そして会場内へと入る。かなり大きなパーティのようで会場の広さといい、人の多さにも佑月は驚いた。佑月と犀川の登場に気付いた周囲の者からは、感嘆のため息がこぼれている。
「あの男性はどなた?」
「なんて美しい」
「本当……とても綺麗」
あちらこちらから聞こえる賛辞の声に、犀川も上機嫌だ。その横で佑月は一人緊張に呑まれつつあった。小さなパーティでのパートナー務めなどは、佑月も依頼で経験はある。しかしこれほどまでに大きく、そして著名人ばかりが集まる社交界は初めてだった。付け焼き刃の作法ではかなり心配になる。
犀川はやはり慣れているようで、常に堂々としている。そればかりか、彼女へ挨拶をするために、沢山の人間が入れ代わり立ち代わりとやってくる。それ程に犀川は有名なのだろうかと、佑月は内心で頭を捻った。
「佑月、あちらの人集 りが見える?」
「はい」
犀川に少し腕を引かれる。彼女の言う人集りはホールの中央部にあり、老若男女が集まる中でも女性が多いようにも感じた。
「あの中心にいる方へご挨拶してから、佑月を紹介したいわ」
真っ赤な唇が緩く弧を描く様を見つめてから、佑月は人集りへと視線を戻した。先ほどから、犀川は会わせたいだとか、紹介したいなどと言っているが、一体佑月をどう紹介したいのか。彼氏役になるのか、婚約者として振る舞うのか、パートナーの立ち位置をもちろん訊いたが、ただ隣にいてくれたらいいと言われただけなのだ。
佑月は不安が混ざる中、ホール全体を見渡していった。天井からぶら下がる豪華なシャンデリアに、高級ワインやシャンパン片手に上品に語らう紳士淑女。ほぼ見たことがある人間ばかりだ。
佑月はとにかく、犀川に恥をかかせない事だけに集中することにした。
「失礼」
人集りを縫って、犀川は中心へと進み出る。そうすれば嫌でも中心人物が誰か分かる。
「……っ」
佑月は咄嗟の事で息を呑むしかなかった。
タキシードに身に包んだ背の高い男は、周囲のどの男よりも美しく、そして気高く圧倒されるオーラを纏っている。威風堂々は彼のためにある言葉のようだ。
そう、佑月の目の前には須藤がいるのだ。須藤も少し驚いたように、目を僅かに見開いている。
「仁、お久しぶり。覚えて下さってるかしら?」
「……あぁ」
犀川は佑月の腕から手を離すと、須藤の腕に絡ませる。豊満な胸が須藤の腕に押しつけられる様は、見ていて気持ちのいいものではない。佑月は直ぐに視線を逸らして、須藤の顔に戻した。
須藤は身を寄せる犀川よりも、ずっと佑月だけを見ている。その視線を辿り、須藤を取り巻いていた者達も、佑月と須藤を交互に視界に入れて、固唾を呑んでいた。
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