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第144話
「さっき言ったこともあるが、後は、お前は記憶を無くした事で、俺との関係を一から始めることになった。なら俺も一から始めようと思ってな。時間が掛かっても、佑月は絶対俺の腕の中へ取り戻せる自信があった……」
珍しく語尾に少し力がない。でも須藤の想いが本当に深すぎて、佑月は嬉しくて仕方がなかった。
逆に須藤が記憶を無くしたと想定したとして、自分は須藤のように一から始められるだろうか。無理だろうなと思った。早く思い出して欲しくて、無理強いをしていそうだ。
それよりも他人に興味が持てない男のことだ。佑月のこともきっと眼中に無く、全く相手にしないのでは。下手をすれば近づくことも許されず、排除されていそうだ。こちらの方が濃厚な線だなと、佑月はこっそりと項垂れる。
あれこれ考えて不安になるのに、須藤の度量の大きさと言ったら。感服する以外なかった。
「それで……自信があったのに、何か無くすような事があったんですか?」
踏み込んだ質問になってしまったが、聞ける時に聞いておきたい。嫌なら須藤はきっと答えないだろう。
「昨夜、お前泣いていただろ?」
「……は、はい」
バツが悪いのと、恥ずかしくて佑月は少し俯いて頷いた。でもそれが何故自信を無くすことに繋がるのかと考えた時、佑月はハッと顔を上げた。
「あ……俺……俺が好きな人がいるって……言ったから……」
須藤が少し苦笑を浮かべる。佑月は直ぐに大きく首を振った。
「違います。好きな人は確かにいるんですが、それは貴方のことで……っ」
「あぁ、俺のことだと、いま分かって安心した」
「……って、そんなにニヤニヤして言わないでください」
改めて告白させられた事に、恥ずかしさやら何やらで、佑月は思わずニヤニヤする須藤を睨んでしまう。
「そういうところ、なんかイヤです」
「まぁそう言うな」
須藤が軽く佑月の唇に唇を触れ合わせてきた。
驚く佑月だったが、嫌じゃない、むしろして欲しいと目をゆっくりと閉じた。
須藤の少し冷たい唇が重なり、やがてしっとりと温かくなっていく。啄むような優しいキスが気持ちいい。記憶を失う前の自分は、こんな風にいつもキスをしていたのかと思うと、自分のことなのに不思議な感覚がした。今の佑月にとっては初めてのキスだ──酔っていた時のものは完全に忘れている──。ちょっと自分にジェラシーを覚えた。
「ん……」
須藤の舌が、佑月の咥内へ入りたがっている。唇を舐めてから、ピッタリと閉じた合わせを須藤の舌がなぞっていく。佑月はそれに応えるように少し唇を開いた。直ぐに須藤の舌が差し込まれ、そして佑月の舌に絡ませてきた。
自分がリードするのではなく、されるキス。
(キスって、こんなに気持ちいいのか……)
心から好きだと思える人とのキスの格別さに、佑月は酔いしれた。そして自身が今までしてきたキスとは全く違うということを、思い知らされることになる。
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