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第146話
佑月は一人、事務所内のソファで、脱力したように座っていた。背もたれに頭を預けるようにして、目を閉じている。
数分前のことが夢だったのではと思える程に、本当に突然の出来事だった。
犀川の今日の依頼も、どうやら佑月が須藤の恋人なのではという疑いを持っていたから、須藤に会わせてきたようだ。しかし女の勘というものは怖いと思った。それか、やはり須藤が男と、例え友人だとしても同居している事が、考えられないことだった。だから、何となく疑わしくなったのか。
「犀川さん、有り得ないって言ってたしな……」
そして犀川は完敗と言っていた。貴方で良かったとも。だからもう犀川は関わってくることはないと思うが、佑月が須藤への想いに自覚を持てるようになったのは、犀川のお陰でもある。そして須藤の恋人が、自分だということを知ることが出来た。
佑月はここには居ない犀川に深く感謝した。その一方で、改めて須藤への罪悪感が浮き彫りになってくる。
この二ヶ月弱、酷い言葉を投げつけたり、知らなかったとは言え、本当にたくさん傷つけてきた。
〝恋人でもないのに〟と言われた須藤の気持ちを思うと、佑月の胸は抉られるように痛んだ。些細な言動にも、きっと深く傷つけていただろう。
堪えきれない想いがどっと溢れてきたが、ここは仕事場だ。佑月は込み上げてくるものを何とか堪えた。
以前と同じようには出来ないかもしれない。須藤にも違和感を与えてしまうかもしれない。でも今の佑月も紛れもなく成海佑月なのだ。今の自分なりに須藤を愛していきたい。佑月はそう強く思った。
今日は何でも屋の仕事も定時に上がれそうで、閉業時間までメンバー揃ってソファ席で談笑していた。後五分ほどで閉業という時に、事務所の扉が開く音がした。
現れた人物に、佑月以外の三人はとても驚き、呆然としている。そうなるのは仕方がない。
現れたのは須藤だが、彼がここを訪れるのは佑月が退院してから初めてだからだ。
「終わったのか?」
「はい、終わりました」
佑月は直ぐに腰を上げ、須藤の傍に寄る。すると小さな悲鳴が上がった。何だと一斉に悲鳴の主へと視線が集まる。
花が仄かに頬を紅く染め、両手を口元で覆っていた。
「花ちゃん……? どうかした?」
佑月が訊ねると、花は手を離して口をパクパクさせていた。
「おい、花……大丈夫か?」
陸斗が心配そうに訊ねると、花は突然陸斗の腕をバシバシと叩き始めた。
「ちょ、痛てぇし、なんだよ」
「だ、だって……だって、須藤さんがここにいらっしゃって、成海さんがナチュラルに傍へ行かれるなんて!」
花は一人興奮していたが、陸斗と海斗も意味を理解したのか、更に驚愕の表情を見せた。
「え……佑月先輩、もしかして記憶が?」
海斗が陸斗と顔を見合わせ、嬉しそうな表情へと変えていく。それには佑月の眉尻も下がっていく。
「あ……ごめんね。記憶の方はまだ戻ってないんだ」
佑月の言うことに、今度は三人で不可解そうに顔を見合わせた。
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