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第158話

「記憶を失う前の俺が須藤さんと……その恋人同士だって事を、俺は颯にちゃんと言ってたかなと、気になって」 「え!? ユヅ、お前まさか!」  興奮したように颯はソファから腰を上げて、正面から佑月の両肩を掴んできた。さすがに佑月も驚いたが、直ぐにその眉が下がってしまう。 「ごめん……記憶ならまだ戻ってないんだ」 「……え? マジで? でも……」  陸斗らと同じように困惑する颯に、佑月はゆっくりと頷いた。 「颯のその反応からすると、やっぱりちゃんと知っててくれてたんだな」 「当たり前だよ。ちゃんと自分の気持ちやらに自信が持てたとき、ユヅは言ってくれた。そん時はやっぱ、すっげー嬉しかったよ」  颯は再び腰を下ろしてニカッと笑う。やっぱり颯は本当にいい男だ。葛藤なども、もしかしたらあったかもしれないが、颯は決して嘘をつかない男だ。だから颯が嬉しいと言ってくれる気持ちは、彼の本音と言える。佑月の心がポっと温まった。 「ありがとうな」  佑月はありったけの思いを込めた。 「そんな改まって礼を言うことじゃないだろ? 俺や陸斗に海斗、そして花ちゃんはユヅが苦しむ姿は絶対見たくないんだよ。まぁユヅからすれば、須藤さんと実は恋人同士だった事、何で言ってくれなかったんだって思ったかもしれないけどさ、あの人が言わないのにオレ達が勝手に言えないだろ~?」  恐ろしいと身震いをする素振りをして、颯は陽気に笑う。確かに恋人である須藤が明かさないのに、他人が勝手に明かすことは出来ない。だけど颯たちも、それが賢明な判断だと思ったからそうしていたに違いない。佑月が元々ゲイなら話は違っていたのだろう……。  こうして次の依頼が始まるまで、颯には以前の佑月と須藤との話を色々と訊ねた。そこで佑月はある決心をしたのだった。  今夜も須藤は早めに帰ってきた。佑月が作った夕食を一緒に食べながら、佑月の気持ちはソワソワと落ち着きがなかった。 「なんだ、どうかしたのか?」  目敏い須藤には直ぐにバレてしまう。だが今のこのタイミングが絶好のチャンスだと、佑月は姿勢を正した。 「あの……多忙な須藤さんに、こんな事言うのもどうかとは思うんですが……」  佑月の緊張が伝わってるようで、須藤は持っていた箸を箸置きに置いた。 「何も遠慮することはない。なんでも言え」  須藤の優しい声に勇気づけられた佑月は、小さく頷いてから桃色の唇を開く。 「その、須藤さんとデートがしたいなって……そう思いまして」  段々と佑月の声が小さくなる反面、顔はどんどん赤くなっていく。須藤は少し驚いたようだが、直ぐに口角が上がった。 「デートか。いいな」 「ほ、本当ですか!?」  佑月はあまりの嬉しさに一気に声が大きくなる。須藤はそんな佑月を見て目を細めた。 「どこか行きたい所でもあるのか?」 「はい!」  佑月は事前に、キッチンカウンターに用意していた物を嬉しげに取った。

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