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第159話
佑月はパンフレットを大事そうに両手で、須藤に手渡した。
「アクアシャイニー……水族館か」
須藤はパラパラとパンフレットを捲ってくれている。しかしその顔は無表情過ぎて、どういう反応なのかが分からなかった。
「はい、水族館です。須藤さん行ったことありますか?」
「ないな」
須藤が苦笑いを混じえて言うが、佑月はきっとそうだろうなと思っていたため、驚きはない。
「俺、イルカが凄く好きなんです。だから須藤さんと一緒に会いに行きたいなぁと」
須藤は少し佑月を見つめてから小さく頷いた。
「いつなら空いてる? お前に合わせる」
須藤の色よい返事に、佑月の心は踊った。
「え、いいんですか!? 須藤さんがとても多忙な事を知ってて言うのもどうかと思いますが……。無理ならちゃんと言ってくださいね」
「大丈夫だ、心配するな。いつがいいんだ?」
須藤の目も優しくそう伝えている。佑月の高揚感は益々高まっていった。
「再来週の土曜日はどうですか? まだ土曜日には予定入ってないので、事務所を休みに出来ます」
来週だと須藤の予定も急には空けられないかもしれないと思い、再来週にしたが、どうだろうかと佑月は緊張し始めた。
「あぁ、それでかまわない。一日空けておく」
「本当ですか!?」
佑月は信じられない思いや、嬉しさが混じるなか、一気にテンションが跳ね上がった。須藤が目を細めて頷くのを見た佑月は、満面の笑みを浮かべた。
「じゃあ、チケットは俺が取っておきますので!」
「それは俺がする」
「ダメです! 俺が誘ったんですから、俺に取らせてください」
頑としてそこは譲らないという意思を込めると、須藤は少し苦笑を浮かべた。
「分かった。佑月に任せる」
「ありがとうございます!」
佑月は中断していた食事を再開させ、再来週の土曜日に思いを馳せた。
「しかし佑月から誘ってくるなど、珍しいな」
須藤は二人が食べ終わったタイミングで口を開いた。
「そうですよね。実は今日、颯と少し話をしてて、以前の俺は須藤さんとデートというデートをしてなかったって聞いて。それを聞いてなんてもったいないんだろうと思って。だから以前は出来なかった事を、これからはどんどんしていきたいなと思ったんです」
多忙だし時間を空けられない須藤だから、以前の佑月は我慢していたのだろう。物分りのいい恋人もいいかもしれないが、やはりワガママも時には言える仲でありたいと思ったのだ。せっかく愛する人が傍にいるのに、一緒に何かしたい事も出来ないなど寂しいではないか。だから佑月は颯から話を聞いた時に、直ぐにデートがしたいと思ったのだ。
「そうか。俺はいつだってお前が言えば時間を空ける。だが俺も今までそこに気づいてやれなかったな。悪かった」
佑月は微笑みながら首を緩く振った。
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