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第162話《Background》※途中から
須藤と水族館へ行く約束をしてから一週間が経った。約束は二十三日の土曜日。今日は十四日だから後九日だ。前売りでチケットも購入し、後は当日を待つのみだと佑月は指折り数えて楽しみにしていた。
須藤はと言うと、ここ一週間何やらどこかへ連絡を入れたり、電話が掛かってくる事が多くなった。多忙な須藤が更に忙しい日を送っている。もしかして、佑月が急な予定を空けさせる事になったからかと、本当に申し訳なくなったのだが、須藤はその事は関係ないと言った。だからと言って暢気ではいられなかったが、それも今日で落ち着くと須藤は言ってくれた。だから佑月も今度こそホッと出来ている。
今日の何でも屋が開店してから一時間経った頃、佑月の目の前のパソコンに、依頼が入った通知がきた。佑月は直ぐに内容を確認する。
「なになに? 今日の十三時の予約の件ですが、場所の変更をお願いします。って、あぁ、あの荷物の……」
昨日事務所に届いた、横幅二十センチほどの小さなダンボールに佑月は視線を向けた。佑月は記載されている住所で場所を確認すると、依頼者へ了承の返事をした。
「公園内のベンチか……。ここって結構広いから、早めに行った方が良さそうだな」
佑月は早めの昼食を取っておこうと、コンビニへと向かった──。
◆《Background》
今日は、朝から須藤の周辺は慌ただしい。真山と滝川は部下への指示で忙しなく動いている。須藤は執務室のソファで泰然 と顔を合わせていた。
「〝彼〟の用意は全て整っていますし、向こうもしっかり情報が渡り、動き出しているようです」
泰然は愉快そうに細い目を更に細めた。
「あぁ、色々と助かる」
須藤が礼を言えば、泰然は表情を改めた。
「成海さんの記憶はまだ戻らないのですか?」
「戻らないな」
そう答えながら須藤は内心で笑った。泰然には佑月の記憶がないことは伝えていない。泰然には何もかもが筒抜けということだ。驚きはないが、佑月の事となると、やはり須藤も面白くない。しかしここまで順調に事が運んでいるのは泰然の協力が大きい。今は波風を立てるのは得策ではないため、須藤も黙っていることにした。
佑月の記憶に関しては、戻らなくてもいいとは本音の部分では須藤も思っていない。やはり佑月には、今まで培ってきたもの、二人の紆余曲折を思い出してほしい。辛い思いばかりさせてきたが、それを乗り越えての二人がある。その反面、このまま思い出さなくてもいいとも思っている。まだ芽生えたばかりの恋心に、あたふたする初々しさが可愛くてたまらないとさえ思う。どちらにせよ、佑月本人にも告げたように、佑月は佑月で変わりない。これまでと変わらず、佑月をひたすら愛していくだけだ。
「では、私はそろそろ失礼させて頂きます」
ソファから腰を上げてから軽く頭を下げる泰然に、須藤は頷いた。
早く終わらせて、佑月には安心して過ごせる日常を戻してやりたい。その強い想いを胸に、須藤はこれから待つ事への緊張感を高めていった──。
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