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第164話《懸念》

「サナエちゃん、今日のこの荷物って、また誰かに渡すんですか?」 「ええそうなの。何だかややこしいでしょう? 荷物を送った方があたしの住所に送るのは嫌だと仰ってねぇ。失礼しちゃうけど。まぁあたしはスナックの二階に住まわせてもらってるから、嫌な気持ちも分からないこともないのよ? でもね~送るだけじゃない?」  サナエが言うには、常連の男が知り合いに不可解な事を頼まれたそうだ。直接自分へ渡せばいい荷物を何でも屋に一旦預けて、それをサナエへと渡し、最終的に常連の男に渡るようにして欲しいと。どうも知り合いの男も誰かに頼まれたようで、皆が謎だらけになっているようだ。真の依頼者が誰か、分からないといったものだそうだ。 「この荷物……なんか良からぬものだったりしないですよね? やたらと軽いですが」  佑月は途端に怖くなる。サナエも真面目な顔つきになりながら、佑月から荷物を受け取った。 「佑月ちゃんを変な事に巻き込んでごめんなさい。あたしも安易に受けてしまって、深刻にものを考えてなかったわ……」  途端に気落ちするサナエに、佑月は彼女の逞しい背中をポンポンと軽く叩いた。 「サナエちゃんは何も悪くないんですから──」 「お話し中、申し訳ございません」  突然割って入った声は野太く低い声。佑月とサナエは驚きすぎて声が出なかった。それくらいに気配をまるで感じなかったのだ。 「……」  声の主は佑月の隣からで、ベンチに腰を掛けている佑月は必然と見上げる形になった。しかし、立っていても見上げる羽目になっていただろう。それほどまでの大男が傍に立っていて、なぜ二人とも気づかなかったのか。 「あ、あなた何者!? 佑月ちゃんに何かしたら、あたしが許さないわよ!」  サナエはベンチから腰を上げると、佑月と大男の間に割って入るように対峙した。サナエもがっしりとした体格で大きい。だが大男と対峙するとサナエが小さく見える。とにかくとても大きな男で腕の太さだけでも佑月の太腿より少し大きいかもしれない。こんな男の前では佑月など赤子と同じだ。 「驚かせて大変申し訳ございません」  大男は一歩下がると慇懃に頭を下げてきた。サナエはまだ警戒していて、男から一瞬も目を離さない。  佑月は静かに周囲を見渡した。佑月には護衛が付いている。護衛を突破して佑月に近付いたのか。この男なら護衛を倒してしまっていてもおかしくない。だが、佑月を攫うなり何かするなら、いちいち声などかけてこないだろう。そう思いながらも佑月の警戒は解けず、男を注視した。 「成海様、お初にお目にかかります。私は須藤様……ボスの部下であります、月山と申します」  月山と名乗った男は顔を上げず、頭を下げたままそう言う。 「須藤さんの部下の方……」  佑月が呟いたとき、視界に入ったものがあった。  

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