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第166話

 佑月が必死に須藤へと走る傍ら、何人かの男が慌ただしく動いている。佑月は脇目も振らず、ひたすらに須藤へと走った。須藤も佑月へと足早に向かってくれている。 「仁!」 「佑月」  やっとたどり着いた須藤の胸元へと、佑月は飛び込んだ。 「ケガは!? さっき男が仁を狙ってて、発砲したんじゃ──」 「佑月、落ち着け。俺は大丈夫だ。誰もケガはしていない。さっきの男は発砲する前に捕らえた」 「本当に……本当に大丈夫なんだな? もうあんな思いはイヤだ……」  佑月の身体は震えており、須藤から少しでも手を離せば崩れ落ちてしまいそうだった。そんな佑月の身体を須藤はしっかりと抱きしめる。 「佑月、大丈夫だ。絶対にお前を一人にはさせない。そう約束しただろ」  漆黒の目が強く訴えてくる。佑月はその目を見つめ返しながら、ゆっくりと頷いた。  須藤が言う通りに、強面の男が二人の男に捕らえられ、車の側まで連れられている。男は怖いほどに静かだ。しかし、佑月と須藤の側を通る時に、チラリと男が視線を向けてきた。蛇のような鋭い三白眼は、憎しみのこもった鋭く昏い目だった。佑月の背筋が少し凍る。これほどの目を向けられるなど、一体この男と何があったのか。佑月が関わることが出来ない裏の世界を、まざまざと知らされた気がした。  そしてマイバッハの後ろに止められていた黒塗りの高級車から、真っ黒なスーツに白髪が妙に映える七十代くらいの男が出てきた。歳を重ねているとは思えない程の精悍さが滲み出ており、他を圧倒する空気を纏っている。佑月から見ても一般人ではないことは直ぐに分かった。 「あれは原口組の組長だ」 「え!?」  須藤が教えてくれる情報に、佑月は素直に驚いた。白い口髭を蓄えた上品な佇まいだが、やはり刺すような重圧が、周囲の空気に緊張を走らせているのが分かる。  日本最大の指定暴力団、原口組。テレビで見ることはあっても、リアルではそうそう見ることが出来ない男。 (あの人が……原口組組長) 「それよりも佑月」  佑月の視線を遮るように、須藤の顔が佑月の目の前を覆う。 「記憶が戻ったんだな。いつからだ?」  周囲のピリついた空気から一線を画した須藤の柔らかい空気。こんな柔和な表情は滅多に見られなくて、佑月はそんな須藤にも戸惑いながらも、言われた言葉にも大いに戸惑っていた。 「……記憶が戻った? どういうこと?」  そう佑月が口にすれば、須藤は困惑したように眉を寄せる。 「ここへは何の依頼で来たんだ?」 「それに関しては、あたしから説明させて頂きます」  佑月らに声をかけてきたのは、サナエだった。大男を伴ったサナエは、須藤へと「お久しぶりです」と丁寧に頭を下げた。

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