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第167話
サナエの説明を聞いて佑月は「そうだったんだ……」と小さく呟いた。その呟きにサナエが怪訝そうな顔つきになる。
「佑月ちゃん?」
「月山」
サナエを遮るように、須藤は月山という名の大男に、何やら目で指示を出した。月山は直ぐに頷き、サナエの背中に手をあてる。
「今からお二人は大事な話をされます。ですので、貴方をご希望の場所までお送りますので、どうぞこちらへ」
月山の申し出に、サナエの目が輝きだす。
「まぁ、よろしいの? じゃあ佑月ちゃん、何かあったらあたしにも遠慮なく言ってね。今日はありがとう」
「こちらこそ、今日は本当にありがとうございました。慌ただしくなってしまってごめんね」
「いいのよ~じゃあね~」
サナエは嬉しそうな顔をして、佑月へと手を振り、月山のお共で帰って行った。サナエの嬉しそうな顔を見て、佑月も嬉しくなる。
「佑月、先に車に乗っておけ」
「う、うん……」
須藤に促され、浮かべていた笑みを消すと、佑月は真山が開けてくれるマイバッハの後部座席へと乗り込もうとした。
「それが仁のいい女か」
七十代とは思えない若々しい声が、佑月の行く手を阻むようにかかる。佑月はチラリと組長に視線を向けてから、須藤へと移していった。須藤の表情は変わらず、佑月にもその感情が全く読めずにいた。
「ええ、そうです。俺の大事な恋人です」
須藤は佑月と目を合わせてから、組長へと答えた。瞬間周囲の空気はピンと張り詰める。何とも言えない空気は、少しでも動くことが許されない。そんな緊迫感があった。
「お前が夢中になるわけだな。やっとお前にと思うと、儂も少しは安心したぞ。しかしこんなに美人なら儂も傍に置いておきたいものだな」
組長が豪快に笑ったタイミングで、真山が佑月に乗るよう促してきた。佑月はホッとしながら、真山へ頭を軽く下げてから直ぐに乗り込んだ。静かにドアが閉められると、異様な空気から解放されて、思わず長い息がこぼれていた。
(さっきのあの男は、後ろの車に乗せられてた。まさか原口組の組員か?)
原口組の組員に須藤は命を狙われていたというのだろうか。だがそこへ組長が現れるというのもおかしな話だ。
佑月が窓の外を見ると、ちょうど須藤が組長へと軽く頭を下げているところだった。須藤が頭を下げる姿を見る日が来るとはと、密かに驚いていると、須藤が直ぐに乗り込んできた。須藤を見ると途端に佑月は心から安堵出来る。
「仁……大丈夫?」
佑月は直ぐに須藤の傍へと寄って訊ねると、須藤は目を細めて佑月の頬を手で包んできた。
「あぁ、大丈夫だ」
「良かった……。それでさっきの記憶が戻ったって話だけど……」
須藤は佑月を暫く見つめてから頷いた。
「実はさっきのサナエちゃんの事も、何で一緒にいたのか少し記憶があやふやで。男が銃を仁に向けてるのを見た時だけ鮮明に覚えてて。だって俺は確か、ある依頼で倉庫へ向かうはずだったんだ。それなのに」
有名俳優からの依頼で、無くしたダイヤモンドの指輪を探して欲しいというもの。依頼を受けて、陸斗に昼からの依頼を代わってもらい、有名俳優……支倉恭平の車に乗り込んだはずだ。それなのに、ここは一体どこで、支倉恭平はどこへ行ったのか。
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