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第171話
「じゃあ、仁と出会ったあのUSBの事件や、一緒に花火見たことや、ヤクザの男に傷をつけられた事も、作られた記憶だって言うのか……?」
佑月はシャツをスラックスから少したくし上げて、左脇腹に指を滑り込ませた。僅かに触れるでこぼことした傷痕に佑月はホッとした。
「ある……」
この記憶は確かなものだと分かると、佑月は愁眉を開いた。
そして過去最悪の忌まわしく、悲しい事件。円城寺政孝と運び屋リアンが絡んだあの出来事は、思い出したくはないが、忘れてはならない事件だ。
佑月を守るために須藤は銃弾を浴びた。あの光景が鮮明に蘇り、パソコンのキーボードに置いていた佑月の両手は、小刻みに震え始めた。
「良かった……本当に」
佑月は震える両手で顔を覆った。
撃たれなくて、誰も怪我をしないで済み、佑月は改めて神にも感謝した。あの場面で記憶が戻るというのは皮肉だが、それ程に佑月の中では強烈な記憶として、脳に刻み込まれていたのだろう。
暫くすると、メンバー三人が帰ってきた。直ぐに佑月は記憶が戻ったこと、迷惑をかけたことなどを詫びつつ、四人で喜びあった。
「でもまたその二ヶ月分が無くなってしまったんだけどね……」
三人は少し神妙な面持ちとなる。
「じゃあ、須藤さんから聞いたのは……あの、今でも腸煮えくり返りそうな、佑月先輩が狙われた事だけってことですか……」
陸斗の顔が、ここには居ない支倉凌平への憎しみで恐ろしいものになる。佑月はそんな陸斗の腕を宥めるように柔く叩いた。
「うん、あとは退院してからは、仁のマンションで一緒に住んでたことは教えてもらった」
「そう……ですか」
陸斗ら三人は顔を見合わせて、目で会話をしているようだ。佑月は相変わらず仲がいいなと微笑ましく思いつつ、この二ヶ月でやはり色んな事があったのだと推察出来た。
「佑月先輩、オレらはいつでも協力は惜しみませんので、何でも言ってくださいね」
海斗がそう伝えてくれると、陸斗と花も大きく頷いた。佑月の胸は嬉しさで熱くなってくる。
「ありがとう……みんな。いつも、本当に……」
佑月はメンバーに深く感謝し、記憶が戻ることを強く願った。
佑月は記憶が戻ったことに喜ぶ滝川の運転で、須藤のマンションへと帰っていた。滝川は佑月の前では感情をオープンにしてくれる人だ。だからとても喜んでくれた姿を見ると、滝川にも色々心配をかけてきたのだなと痛感した。
(それに対して絶対に文句言う人じゃないし。本当、真山さんに、滝川さんって凄いな)
「ただいま」
「あっ、え?」
夕食の準備をしながら考え事をしていた事もあり、突然の人の気配に驚いた。数時間ぶりに見る須藤がリビングへと入ってくる。
「仁、おかえり! 珍しく早いんだね」
時計を見るとまだ二十二時過ぎだ。佑月は直ぐに須藤の傍へと寄り、鞄を持った。
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