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第175話《須藤と組長》

 少し赤みがかった深い黄金色の綺麗な液体が、グラスに注がれる。須藤と一緒に住むようになって、軽く手を出すことは出来ない高級ブランデーを、口にする事が多くなった。やっぱり高いだけあって味や香りは最高だ。でも佑月は基本、みんなでワイワイと居酒屋で飲むことが好きだ。 「ん? なんかこれ、オレンジっぽい味がする」 「好きだろ?」 「うん」  グラスに注がれた一杯を、あまりの美味しさにグイグイと飲んでいく。銘柄はハーディ。きっと佑月が頑張っても手が出せない値段だ。 「おい、佑月。それは口当たりはいいが、キツい酒だぞ」 「あ……」  飲みかけのグラスを奪われ、佑月は不満の声を上げる。 「飲むならゆっくりと飲むんだ」  そう言ってグラスを返してくれた須藤に、佑月は頷いた。二人でこうして家でゆっくり飲むのは久しぶりで、会話は少なくても、まったりとしたこの時間がとても幸せだった。 「仁」 「なんだ?」  人の肩に頭を乗せ、もたれかかる佑月の腕を須藤は優しく撫でている。その心地良さに、酒が入ったことでフワフワとした浮遊感に包まれていた。 「あの原口組の組長とは、どういった経緯で知り合ったの?」  誰もが一度は必ず聞いたことがある組だ。極道界のトップと須藤が懇意にしているなど、気にならないと言ったら大嘘になる。 「確か……東條さんの娘を助けた事がきっかけだったな」  東條遙稀(とうじょうはるき)。テレビでも何度か耳にしたことがある原口組組長の名前だ。 「娘さんを」 「あぁ。俺がまだ二十代前半だったか、娘の(みやび)が半グレに絡まれていてな。まぁ俺は正直女を助けるという気持ちはなかったが、その時むしゃくしゃしていたこともあり、丁度いいターゲットがいただけだった話だが」  助けられた娘、雅は須藤の強さに惚れ込み、兄と慕ったようだ。親である東條は娘の命の恩人として、それはそれは感謝し、今では須藤を家族のように受け入れているという。 「そうだったんだ……。きっかけはどうであれ、結果助けて事には間違いないしね。一人娘だから余計に組長も親として、助けて貰えたことが嬉しかっただろうな。でも娘さんは、こんないい男を前にして好きにならなかったんだな」  漫画やドラマのようなシチュエーション。しかも極上の男前がカッコよく助けてくれるなど、惚れる要素しかない。 「雅には恋人がいたからな。今はそいつと結婚してる。あくまでも俺は〝兄〟らしいぞ」  須藤は無表情で言うが、きっと須藤も雅を妹のように可愛がっているのだろう。そんな空気が伝わってくる。 「仁をお兄さんと思えるって、やっぱり〝お嬢〟ってだけあるのかな」  佑月が冗談めかして笑って言うと、須藤も僅かに笑みを見せる。  須藤のこの優しい笑みが好きだ。恋をしたてのように心が浮き立つ。佑月の細胞全てが、須藤が大好きだと言っている。  佑月はそっと手を須藤の指に絡めた。直ぐに須藤も応え、佑月の指に絡めてくれた。  

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