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第176話《異変》

「佑月」  須藤が絡めたままの手で佑月を自身へと引き寄せると、腕の中へと閉じ込め、求めるがままに深く唇を重ねてきた。もちろん佑月も嬉しさで応える。  もう数え切れないほどに佑月らはキスを交わし合ってきた。お互いの良いところも完全に把握している。だから二人は唇を重ねるだけでもかなり気持ちよくて、心も満たされていくのだ。 「ん……」  須藤の手が次の段階へ進めていくように、佑月の身体のラインを辿っていく。パジャマ代わりのスウェットの上着の裾から、須藤の手が差し入れられる。  滑らかに滑っていく指。それだけでゾワゾワと全身が痺れていった。そして胸の頂に、親指の腹が掠めていくと、佑月の身体は小さく跳ねる。少し触れられただけで敏感に感じ取ってしまう身体へと、この愛しい男に変えられた。息が触れるだけでも感じてしまう。 「ん……ん」  バンザイをして須藤が脱がしやすいようにしながらも、少しでも唇が離れるのは、お互いに我慢ならなかった。脱がすと須藤は直ぐに唇を塞いでくる。  強く求められる事が嬉しいと、心は更に高揚していた。だがその異変は直ぐに気付くことになる。 (……なんか……おかしい?) 「……仁」  須藤の手は佑月の下腹部を触れている。それなのに佑月の下腹部は静かだ。佑月の不安を感じ取った須藤は、宥めるように腰を撫でた。 「直接触れば大丈夫だろう」 「うん……」  須藤は佑月のスラックスと下着をずらすと、静かな佑月の性器を掴むと、直ぐに口に咥えた。温かな粘膜に覆われ、巧みな舌技がとても気持ちいい。だけどどうしても高みへ向かっていく熱が灯らない。 「なんで……? 仁……ごめん」 「謝るな。あれだけの事があったんだ。俺も配慮が足らなかった」  佑月は首を振る。須藤が気に病むことは何も無いのだからと。  正直自分が信じられなかった。心身ともに何の不調もないのに、勃たないなんて。こんな事今まで一度もなかったのにと、佑月はかなりの勢いで気持ちが落ちていった。 「仁、俺が勃たなくても出来るよね? だからやめないでくれ」  佑月はそう言うが、須藤は緩く首を振り、佑月の下着とスラックスを上げてしまう。 「佑月、自分が思っている以上にお前の心には負担がかかってる。やはり記憶のことも、無理に思い出そうとするな。自然に任せろ」 「それは……。それも俺にとってはその方がストレスになる。思い出したいのに、何もせずに過ごすなんて耐えられない」  佑月は須藤の胸に額をつけ、縋るように両手は腕を掴んでいた。 「なぜそんなに拘る?」 「たった二ヶ月のことでも、きっと大事なことや、忘れてはいけないことがあったと思う。それを知らないまま過ごすのは、どうしても耐えられない。我儘言ってごめん。でも……」 「我儘はどれだけ言ってもいい。ただ俺はお前が心配なだけだ」  須藤に抱きしめられた腕の中で、佑月は何度も須藤へと詫びた。

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