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第177話

 須藤は最後まで渋っていたが、反対はしなかった。そのため、佑月は予定通り一ヶ月という期間の中で、やれるだけやってみようと思った。  夜も深まり、佑月は隣で眠る須藤の寝顔を見つめていた。規則正しく上下する胸元を見るに、深い眠りに落ちていることが分かる。須藤の高い鼻に、佑月はチョンと指で触れた。 「仁……俺も大概、欲深いなって思う。命があっただけで良かったと喜ばないといけないのに。失った記憶までも欲しいなんて」  佑月の指は鼻から唇、顎へと辿っていく。 「だけど俺は、例え自分が相手であろうと、自分の知らない間に、もう一人の自分が仁と一緒に時を過ごしてたって事が嫌なんだ……。おかしいだろ? おかしいって自分でも思う。ただ俺は……」  徐ろに半身を起こして、佑月は須藤の唇へとそっと自身の唇を重ねた。 「俺は仁が好きなんだ。愛してるから、例え自分であっても譲りたくない。だから思い出したいんだ。もう一人の自分だったものと、ちゃんとリンクさせたいんだ。こんなにムキになって、思い出せる確証も、方法もちゃんと知ってるわけじゃないのに、凄く意地になってるかもしれない。でもやれるだけやって、それでも思い出せなかったら、俺はちゃんと諦める。そして今回のように自然と思い出せる日を待つことにする」  今度は顎にキスを落とすと、佑月はそのまま身を寄せて須藤の身体に密着をした。 「それと……勃たなくてごめん」  もしかしたら二ヶ月の間、須藤は禁欲生活を強いられていたかもしれない。もしそうだとしたら、今夜やっと佑月を抱ける機会だったのだ。そう思うとやり切れない。  佑月は右手を自身の下着の中へ忍ばせて、性器に直接触れた。左手は須藤の手を握る。須藤が隣にいて自慰をするなど初めてだ。する必要がない程にお互いが求め合っていたからだ。  普段から自慰はあまりしないため、ややぎこちない動きだが、自分の良いところぐらいは分かる。そこを念入りに佑月は擦り上げていった。 「ん……」  気持ちいいはずなのに、気持ちよくない。今はそういう気分ではない事も要因ではあるのだろうが、須藤の手を想像しながらしているのに、全く反応しない。 「なんで……」  抱いてほしいのに。心は須藤を強く求めているのに。  佑月は須藤にしがみつくように抱きついた。条件反射なのか、須藤は佑月へと身体を向けると腕の中へと閉じ込めてきた。温かく優しい腕の中で、佑月は静かに泣いた。

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