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第180話

 こんなに須藤を好きになるとは佑月も思っていなかった。自分自身に嫉妬までしてしまうなど、今回の事がなければ抱かなかった感情だ。  そう例え自分であっても、須藤は誰にも渡したくない。昨夜も強く思ったおかしな思考。だが、この止められない感情は、佑月の正直な気持ちでもあるのだ。  佑月はいま、一ヶ月前入院していた四角(よすみ )総合病院を訪れていた。依頼の合間を縫って、陸斗らの了承を得てここへ来ている。  病院は結構な広さがあった。広大な敷地に立つ建物を見るに、大病院なのだろう。ここならあらゆる分野で診てもらえそうだ。  周囲は都会の街並みを思わせる幹線道路が走っており、大きなビルも目立つ。緑など敷地内の一角にあるくらいだ。佑月は一呼吸置いて、中へと入っていった。  沢山の人間が行き交う中、佑月は視線だけウロウロさせながら周囲を観察していた。今の佑月にとっては初めて訪れる病院だ。中へ入っても、何かを思い出せるような感じはない。 「あら! 成海さん?」  前から歩いてくる四十代と思しき看護師が、笑顔で話しかけてきた。 「あ……こんにちは」  こうして声を掛けてくると言うことは、かなりお世話になった看護師だったということだろう。佑月は丁寧に頭を下げた。 「元気そうなお顔が見れて安心しました。リハビリも、もうこちらにはいらっしゃらないと伺ってたので、私ら看護師はとても残念……あら、こんな事言ってはダメですね」  看護師は朗らかに笑う。優しそうな看護師だと佑月は密かにホッとした。 「あの、いま少しお話しても大丈夫ですか?」  佑月が遠慮がちに訊ねると、看護師は笑顔を見せて頷いてくれた。 「ええ、今は急ぎの用がないから大丈夫ですよ。あちらの人の少ない場所へ移動しましょうか」 「ありがとうございます」  用がないと言うのは嘘だろうが、時間を割いてもらえることに佑月は感謝した。  MRI検査室前のロビーソファに、二人は腰を下ろした。限られた時間しかないため、佑月は単刀直入に話を切り出すことにした。 「記憶喪失の件で少しお話したくて。僕が記憶喪失だったことはご存知だと思います。その記憶が戻ったのですが、その代わりに入院してからの記憶が無くなってしまったんです。ですので、看護師さんのことも分からずで申し訳ございません」  看護師は喜んだり驚いたりと、佑月の話を聞きながら表情を変える。 「そうだったのですね……。それはとてもお辛いことと心中お察しします」  看護師の温かい言葉に、佑月は微笑を浮かべて緩く首を振った。 「それでここへ来たのは、何か思い出せるきっかけがないかと訪ねさせて頂きました」 「なるほど。あ、そう言えば、成海さんは理学療法士の村上くんと仲が良かったから、会えばもしかしたら何か思い出すかもしれませんね」  村上という名を聞いて、佑月のこめかみ辺りが僅かにツキンと痛んだ。もしかして何か分かる前兆かもしれない。佑月は逸る気持ちを抑え、看護師に改めて向き直った。

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