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第184話

「仁が帰ってくるには早すぎるし、何だろうと思って」 「うちはセキュリティは万全だが、それくらいの警戒は必要だな」  須藤は誉めるように佑月の頭を一撫でする。佑月は頷きつつ、内心では須藤が昨日より早く帰って来てくれたことが嬉しくて仕方なかった。今の佑月でも早く帰って来てくれているからだ。  須藤の鞄を持つと佑月は踵を浮かした。 「おかえりなさい」  素早く〝おかえりのキス〟を軽くすませるつもりが、須藤に腰を抱き寄せられ、深いキスをされた。 「ただいま」  自身の唇を舐める姿がかなり蠱惑的で、佑月の胸は高鳴る。今夜は何だか出来そうな気がする。いや、今すぐ抱いて欲しい。佑月は自ら行動しようと、須藤の首筋に抱きつこうとした。そこで佑月の動きがはたと止まった。  もし、また勃たなかったら? 今度こそ須藤は問答無用で、記憶を取り戻すことを止めるだろう。 (それじゃ一ヶ月も仁と……)  目の前に愛する男がいるのに触れられない。でもこれは自身で決めたことなのだ。須藤を巻き込んでしまっていることが申し訳ないが、溜まった欲を解放させることくらいは、佑月にも出来る。 (……実際、そういう問題じゃないけど)  二人で愛し合うことに須藤は拘るため、一方的な行為はあまり好まない。自分から奉仕するのは好きなようだが。  あれこれ思うことがあるが、ブレていれば須藤にそこを突かれてしまう。  佑月は止まってしまった事を誤魔化すように、須藤の首筋に抱きついて頬に軽くキスをした。 「夕食は初めてのハンバーグにしたけど、嫌いじゃないよね?」 「あぁ、お前の作ったものなら何でも美味い」 「良かった」  須藤のジャケットを預かり、佑月は洗面ルームに向かう須藤の背中を見つめる。 (やっぱり誤魔化せてないな。空気変わったし)  佑月はこっそり肩を竦めて、預かった鞄とジャケットを片付けた。キッチンに戻ると、途中だったフライパンに火をつける。  肉が焼ける香ばしい香りに食欲がそそられる。焼けたハンバーグをお皿に乗せ、手作りソースをかける。そして付け合せのポテトサラダとレタスを盛り付け、スープをカップに入れたタイミングでご飯が炊けた。 「いただきます」  こうして二人で連日夕食を食べられる事が幸せだ。ソースも我ながら上手く出来て、佑月は満足していた。 「今日、病院行ってきたんだろ? 何か感じるものはあったか?」  須藤の問いかけに佑月は緩く首を振る。 「ううん……全く。病室まで見せてもらったけど、全然だった。ただ……」 「ただ?」  須藤に隠しても意味がないため佑月は感じたことは言っていくことにした。 「理学療法士の村上先生のお名前を聞いたときに、軽くだけど、こめかみ辺りが一瞬痛くなって、なにか思い出せる前兆かと思ったんだけど……」  須藤の眉が僅かだが寄せられている。いいリアクションではないことは明白だった。

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