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第186話
「須藤さん、おはようございます。今日はよろしくお願いします」
須藤へと頭を下げる颯を見ながら、佑月は胸中では颯に謝罪をしていた。
昨夜この件を電話した時は颯も驚いていた。しかし、颯は直ぐに了承してくれた。本当は颯から『それならオレは、今日はやめておくよ』と言われるかもと思っていたため、逆に佑月が驚かされたが。
それでも颯は須藤から良く思われていないことは知っている。だから余計に居心地が悪いだろうに、すまないと思う反面、何故とも思った。だが颯曰く、佑月が襲われた現場を、自分もしっかり見ておきたいと言ってくれたのだ。それに最初に行く予定だったのは、佑月と颯だ。須藤が謂わば飛び入り参加なだけで、颯が遠慮をする必要はないのだ。それでもやはり、気楽さが無くなってしまったことが申し訳ない。
「行くぞ」
「ちょっと待って」
須藤に腰を抱かれた佑月は待ったをかける。
「颯ごめん。せっかく車で来てもらったんだけど、さっき仁からこっちで車を出すって伝えられて」
「おーそっかそっか、それは全然問題ないから気にすんなよ。逆に乗せてもらえるのは、ちょっと楽しみでもあるし」
ひそひそ話をするようにお互い近くに寄っていると、直ぐに須藤の手によって引き離されてしまう。
少しでも近づくだけでこの様子だと、少し先行き不安になる。颯は少し苦笑いを浮かべて、オーバーに佑月から離れた。
「真山さん、おはようございます!」
真山はいつものようにマイバッハの横で姿勢良く立つ。佑月は須藤から離れて躍り出るように真山の前に立つと、深く頭を下げた。
「な、成海さん? どうされたのですか……とにかく、どうか頭をお上げください」
佑月が顔を上げると、真山は須藤に理由を求めている視線を送っているところだった。
「昨日は電話で失礼したので、本当にすみませんでした」
昨日の朝の出来事を真山に詳細に聞かせると、真山は〝なるほど〟といった風に、須藤の言動に理解を示していた。
驚くのではなく、須藤がそうすることが当然といった真山の態度に、やはり須藤だけではなく真山も少し変わったのだと痛感した。とにかく今は暗くなっている場合ではないと、佑月は真山に笑みを向ける。
「今日は突然なのに、ありがとうございます。颯も一緒によろしくお願いします」
「いえ、成海さんのためでしたら、いつでも協力させて頂きます。どうぞお乗りください」
真山が開けてくれた後部ドアに、先に佑月が乗り込んだ。颯は僅かに緊張はしているようだが、明るい声で「お邪魔しまぁす」と、助手席に乗り込む。端から後部座席に乗るという考えはないようだ。
「そんなに長くは滞在しないけど、何か予定が入ったりしたら遠慮なく仕事に出てよ」
隣に座った須藤にそう伝えると「あぁ、心配するな。予定は入らない」と須藤は言い切った。
入らないのではなくて、入れないのだろうと、佑月はつい苦笑いをこぼしてしまった。
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