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第187話

 場所は中央区にある結城倉庫。佑月が訪れる事は、事前に代表の者に連絡済みだ。  主要道路から離れた道に入ってから小一時間ほど経つが、流れる景色を見ていても佑月の脳は静かなものだ。この辺りは通ったことも、来たこともない場所だ。だからということもあるのか、いま真山が運転する車で走っていても、初めて通る所、そういう認識しかなかった。 (それにしても颯すごいなぁ……)  颯は持ち前のトーク力で、真山へと話しかけているが、真山からの返事は簡潔で会話に花が咲くことがない。それでもめげすに話しかける颯のバイタリティには感服せずにはいられない。 「真山さんの初恋っていつですか?」  颯の質問に佑月も俄然興味が湧く。 「おぉ、それは俺も気になります」  前のめりになって前席の間から顔を覗かせば、真山は少し苦笑を浮かべた。ワクワクと高揚していた佑月だったが。 「佑月、ちゃんと座ってろ」  須藤にお腹へ腕を通されて、定位置へと戻されてしまう。佑月は軽く須藤に謝るが、意識は完全に真山の初恋だ。 「それで、いつなんですか?」  左隣から僅かな冷気がくるが、今は怯まない。 「そうですね……確か、中学生だった記憶がございます」 「中学生!」  佑月と颯は仲良くハモる。 「いやぁ~それはなんか真山さんらしいというか。っていうほど真山さんとは、ユヅのように深い付き合いはないですけど、勝手な想像です」 「俺も颯と同じ感じですね。真山さんは、恋より勉学に重きを置いてそうなイメージがあったので。すみません、凄く失礼な事を言ってますが」  佑月が謝ると、真山は「いえいえ」とルームミラーから微笑を向けてくれた。 「成海さんが仰る通りで、恋よりも勉学に励んでいる方が楽しかったので、まさか自分が人を好きになる日が来るとは思ってませんでした」 「そうなんですね。真山さんの初恋……響きがいいです」 「分かるなそれ!」  佑月と颯は真山の初恋に妄想を広げて頬を緩めた。もっと色々と聞きたかったが、相手が真山だと、これ以上深く聞くのは失礼にあたる。颯もそれは分かっているようで、深く追求することはなかった。 「ちなみにオレは幼稚園入る前だったかな?  近所のお姉さんだったな」 「それも颯らしいよな」  佑月と颯だけが笑う車内。相手が親友となれば、普段須藤には見せない顔を佑月は見せてしまっている。これはいけないと、佑月は表情を少し改めると須藤へと向き直った。 「仁は……その初恋はいつとか覚えてる?」  そう訊ねると、颯がピクリと反応する。素知らぬ顔をしているが、耳がダンボになっている。そりゃ裏社会の王とも称される男の初恋と言われれば、気になるだろう。  佑月はと言うと、訊ねたのは自分のくせに、少し後悔していた。なぜなら、人に無関心な男が恋心を抱いていたなど、かなり特別なことだからだ。  

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