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第188話

 須藤がタブレットから顔を上げて佑月を見る。結局車内で仕事をしている。大丈夫なのかと心配したところで、須藤が大丈夫だと言えば、大丈夫になってしまうのだ。 「俺の初恋はお前だ」 「え!?」  さらっと言われて佑月は面食らった。そして自分を指さして「俺?」と訊く佑月に、須藤は頷く。 「お前と出会うまでは他人に興味など全く持てなかったからな」  須藤が佑月の頬に触れ、愛おしそうに見つめてくる。途端に佑月の頬は熱をもった。胸の鼓動も段々と大きくなっていく。 「知ってるだろ?」  須藤がそう訊ねてくるが、佑月は少し困惑気味にゆっくりと首を振った。 「仁が他人に無関心なところがあることは知ってる。でもそれと恋はまた別というか。幼少のころにだって恋をしてるかもだし」 「幼少の頃は環境が目まぐるしくてな、誰かに興味を抱いている暇もなかった。人間が嫌いだったというのもあるが」  人間が嫌い。そう言えば、須藤の両親はお互いに恋人を作って消えたと言っていた。その後は父方の祖母が引き取ることになったが、三年後には祖母はガンで他界してしまっている。あとは施設へ行ったと。佑月には想像出来ない境遇にあって、人間不信になってしまったのかもしれない。  そんな須藤が佑月には興味を示してくれた。これはある意味、奇跡とも言えるのかもしれない。 「仁、俺と出逢ってくれてありがとう」  あのUSBの依頼がなければ、きっと出会わなかっただろう。円城寺政孝の周囲を調べていたというから、出会う前から佑月の存在は知っていたようだが。それでも須藤は関わってくる事はなかった。全てはあの依頼があったからだ。 「それは俺のセリフだ」  須藤に肩を抱き寄せられ、密着し合う二人。完全に二人の世界に入ってしまい、颯はフリーズしてしまっていた。ちなみに真山は慣れているから、通常運転だ。  結局倉庫へ着くまで須藤は佑月を離さず、会話も須藤とだけに限定されていた。結局のところ、颯と仲良く話すことが面白くなかったのだろう。 「ここか……」  倉庫前の広いスペースにマイバッハが止まる。佑月は真山が開けてくれたドアから、須藤の次に降りた。  やや喧騒から離れたが、やはり周囲を見渡せば高層ビルや都会ならではの風景が広がっている。だがかなり静かだ。倉庫前のスペースは結構広く、鉄筋、木材が積まれている。  佑月は隅々まで視線をゆっくりと移していった。 「大丈夫か?」  佑月の腰を抱き寄せた須藤が気遣うように言う。 「うん、ありがとう。今のところ何も感じないし」 「そうか」  須藤へと頷いたとき、倉庫の中から一人の男が出てきた。佑月は直ぐに男へと足早に向かう。 「成海さんでしょうか?」 「はい、成海です。今日はお忙しい中、ご協力頂き、本当にありがとうございます」  佑月は男に向かって深く腰を折った。ここの責任者ではないが、佑月にとっては必要不可欠な人物であった。  

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