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第190話

 倉庫の一番奥手まで来た時に、田口は立ち止まった。 「……当時はこちらに単管が立て掛けてあったんだよ」  田口は申し訳なさそうに言う。奥側ということもあり、スペースを確保するために立てていたという単管だったが、佑月の事件の後は寝かせて置いているという。 「ここですか……」  佑月は屈みこんで、寝かせてある単管にそっと触れた。  二メートル半はあると、刑事から聞いていた。そして重さは一本七キロもあると。こんなにずっしりとした単管が、十五本ほど自分へと倒れてきた。 「……ユヅ」  颯の心配が滲んだ声に、佑月は顔だけを颯らへと上げた。 「話で聞くのと、実際に目の前で見るのとではやっぱり全然違うものなんだな……。向かってくる瞬間の記憶が無くても、こんな物が自分に倒れてきたと思うと……やっぱり凄く怖い」 「そりゃそうだよ。オレだって話でしか聞いてなかったし、聞いた時も怖えと思った。でも実際、生で見ると……オレも怖いな」  颯が自分のことのように苦しそうな顔をする横で、須藤と真山は憎悪を膨らませた鬼のような表情になってしまっている。 「私も成海さんを発見したときは、今だから言えるんだが、もうダメだと正直思ったね……。何せよりによって、頭を打って出血も酷かったもんだから。だからこうして成海さんの元気な姿が見られている事が奇跡だと思うよ」  田口の温かく優しい想いに、佑月の目頭が熱くなる。  当時は無断で倉庫内へと入ったというのに。後から警察から事情を聞いたとしても、佑月は支倉を信じていた事もあったが、やはり無断で入っていたことには変わりないのだ。それなのに、ここの責任者や、田口は佑月を責めない。しかも責任者からの手紙の返事に、こちら側に不備があって申し訳なかったと記されていた。  佑月からすれば勝手に入った自分が悪いことだが、警察や結城建設からすれば、事故の原因となったものは、不備として捉えられてしまう。単管を立てて置いておく事が、危険だということなのだ。  何れにしろ、沢山の人間が関わってしまう事になり、当事者である佑月は被害者とはいえ、申し訳なかった。 「本当に奇跡だよな。ユヅがこうして元気な姿になるまで回復してくれたことが」 「そうですね。私も現場を見させて頂いたのは初めてですが、こんなこと……。とても恐ろしく……大事な成海さんの命も危ぶまれ……私は、未だに許すことは出来ません」  真山が声を詰まらせながら言う姿に、佑月は今すぐ真山に抱きつきたくなった。佑月のために怒りを抑え込んでくれる。それ程に佑月のことを思ってくれている事が堪らなく嬉しかった。だから〝大丈夫です〟と。 「皆さん……ありがとうございます」  須藤はここへ入ってからずっと無言を貫いている。しかし空気が雄弁に語っている。激しい怒りを抑え込んでいることが。  

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