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第191話
目が合った須藤に、佑月は少しでも心が凪いでくれるようにと微笑んだ。須藤はとりあえず佑月には少しの笑みを見せようとしてくれたが、上手くいかなかった。
愛する佑月が命を奪われかけた場所だ。心を鎮めてくれと宥めても酷なことかもしれない。佑月とて、リアンに撃たれた時の事を思い出すと、悲しくて憎らしくて胸が抉られる。リアンを許すことは出来ない。そうは言っても、須藤にこれ以上心を痛めて欲しくない。
佑月は徐ろに目を閉じると、単管パイプがどのように自分へ倒れてきたのかを、頭の中でイメージしてみた。自分へと倒れ込んできた太い単管パイプに、佑月は閉じている目を更にギュッとキツく瞑った。
「……っ!」
「佑月」
額を押さえて佑月は蹲ってしまう。何か一瞬見えたような気がした。
肩を抱いてくれる須藤に佑月は視線を移す。
「仁」
「佑月、気分が悪くなったのなら、もう帰るぞ」
佑月を支えながら立たせると、須藤はそのまま佑月を離さず腰を抱く。だが田口の目があるため、佑月は「大丈夫だ」と、須藤の腕を軽く叩いて、さりげなく離れた。
「ただ、ちょっと何かが見えそうだったんだ。でもそれを掴もうとしたら、一瞬で消えてしまった」
「そうか」
佑月はもう一度、倉庫内の全体を視線だけゆっくりと流していった。
ここに来れば何かしら思い出せると思っていた。どちらの時も、ここだけが共通して記憶が抜け落ちているが、元となった場所へ来れば何か掴めると思った。確かに何か掴めそうだった。
単管パイプが倒れてくる時に強い感情と言えばいいのか、何か胸が張り裂けそなイメージがあった。あれが何だったのか確かめたくても、恐らくもう浮かぶことはない様な気がした。
ここにいても、もう何も思い出す事はなさそうだと判断した佑月は、田口に深く感謝を伝え、佑月ら一行は結城倉庫を後にした。
帰りの車中で、佑月はボンヤリと流れる景色を見ていた。
誰も喋らない車内。佑月は隣に座る須藤へと、さりげなく身体の向きを変えた。そして須藤の指に佑月は指を絡める。
あの倉庫に入ってから特に須藤は怒りを必死に耐えている。
「仁……もう離れたから、リラックス、リラックス」
絡めた指を持ち上げて軽く振ったりして、佑月はにっこりと須藤へと微笑んだ。
「真山さんに颯も、暗くならないで下さい。結局なにも掴めなかったのは残念ですけど」
そう言うが、二人はまだ沈んだままだ。須藤も自分なりに怒りを鎮めようとはしているようだが、まだまだ空気は重い。
「なんて言うか……ユヅがこうして元気でいるのが、田口さんが言ってた奇跡って言葉が、本当にしっくりとくるな。オレさ……あの単管見て、あの現場を見て、改めて支倉って奴を殺したくてたまんねぇって思った。だからさ……生きててくれて……本当にありがとうな」
最後は声を詰まらせる颯に、佑月には込み上げてくる涙を止めることは出来なかった。
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