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第192話
「オレ……ユヅを失ったら生きていく力なんて無くなるだろうな……」
「ありがとうな颯。でも俺はそう簡単には死なない。颯や、みんなを置いて死なないよ。特にこの人置いて逝ったら、どうなるか……」
佑月は絡めていた指に力を込めて、須藤を見つめた。苦しそうな表情で佑月を見つめ、須藤も佑月の指を力強く握り返してきた。
「確かにそれは……」
颯が小さく呟いて身震いをしている。
須藤の佑月への執着が尋常ではないと、恐らく自他ともに認めていることだろう。でもそれは佑月も同じだ。特に記憶が戻ってからの佑月は自分自身に嫉妬してしまう程に、須藤のことで頭も心もいっぱいだ。お互いに、欠けてはならない存在という想いが強くなっている。
「そう言えば、仁が煙草を吸うところを見ないような気がするんだけど、もしかして遠慮してる?」
「いや、煙草はやめた」
「えぇ!?」
須藤の返事に佑月と颯は同じように驚く。
「な、なんで? もしかして……俺が入院中に、ついでに健康診断でもしてもらって、引っかかった……?」
佑月は至って真剣に須藤の心配をしている。だが須藤は可笑しそうに、口元を緩めた。佑月はそんな須藤を見て、思わず眉根を寄せてしまう。
「自主的にやめただけだ」
佑月を宥めるように頬を撫でながら須藤は言う。
「自主的にって何かあったのか? 健康問題じゃないならなんで……」
佑月の前でプカプカ吸う事はなかったが、結構な本数を吸っていたのを知っている。
「願かけをしていた。佑月の怪我やらが早く治るようにとな」
元々静かな車内が、更に静かになったような気がした。それ程に皆が驚き、息を呑んでいたからだ。
「そう……だったんだ。ありがとう仁……」
もっと沢山の感謝の想いがあったが、言葉として上手く出てこなかった。須藤の肩に額をくっつけて、佑月はあらゆる感情が溢れださないように必死に我慢をした。
きっと、その願いは佑月の記憶が戻る事も入っていただろうから。こうして今は記憶は戻ったが、その間の須藤の事を思うと、やはり胸が痛い。
その時、どこからかすすり泣く声が聞こえた。この中で泣くのは自分以外では……颯だ。案の定、助手席に座っている颯の身体が少し震えている。
「は、颯? どうしたんだよ」
「……いや……ぅ……だって……なんか本物の〝愛〟を見たって感じだからさ……ぅ……あの須藤さんが願かけするって……」
「だからって……泣くことないだろ」
佑月も嬉しくてもらい泣きしそうになりながら、茶化すように言う。
「でもさ……あの須藤さんが願かけするって……」
同じ言葉を繰り返す颯だが、佑月には颯の気持ちが分かった。〝あの須藤さん〟と表現したくなる程に、以前から須藤を知っていた颯にとっては、本当に信じ難いことなのだろう。
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