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第193話
「なんか今日の颯は珍しく涙もろいな。颯が泣くなんて滅多にないから、ちょっとビックリした」
「なんだろうな……倉庫のこともあって、ユヅが生きてくれてる奇跡とか色々重なって、ユヅがめちゃくちゃ大事にされてるとか、ん~なんて言うか感情が高ぶってしまって」
少し照れたように言う颯を、佑月は抱きしめたくなったが、物理的な距離と須藤への配慮で我慢するしかなかった。
「ありがとう……颯」
こうして、異色のメンバーが混ざった風変わりな記憶探しの旅は、終わりを告げた。
昼の依頼を終えた佑月は、事務所の机に向かってパソコンを開いていた。珍しくメンバー四人が昼過ぎに集まる事務所内。夕方から皆また依頼があるが、それぞれコンビニ弁当やインスタントなどで少し遅い昼食を摂っている。佑月もパンを片手にキーボードを叩きながら、スケジュールを管理していた。
「ん……?」
ふと佑月はスケジュールを見ながら首を捻った。
「佑月先輩、どうしたんですか?」
海斗が唐揚げを口に頬張りながら問うてきた。
「来週の土曜……二十三日の土曜日だけど、珍しく休みにしてるんだな」
「……あ、あぁ! そうなんですよ。来週はみんなゆっくり休もうと、依頼も入れないように佑月先輩が組んでくれました」
海斗がそう答えてくれると、陸斗と花が声を揃えて「ありがとうございます」と嬉しそうに言う。少し演技くさい感じがするが、どちらにせよ、まともな休日がない彼らには休みが必要だ。
「そうだったんだ。いつも休みが不定休でごめんね」
「全然! オレらは佑月先輩と一緒に仕事が出来ることが嬉しいし、何よりこの何でも屋が性に合ってるので本当に楽しいんですよね」
「嬉しいこと言ってくれて……ありがとう、陸斗、海斗、花ちゃん」
だからと言って甘えてばかりではいられない。何度もそう思いつつ、皆に助けられて佑月はこうして好きな仕事が出来ている。
人の役に立ちたい。そんな思いで始めた何でも屋だが、陸斗らが支えてくれているから叶っている仕事だという事を、忘れてはならない。
それから一週間経った土曜日。今日は何でも屋を休みにしているため、佑月は少し外でも出歩いて、心身のリフレッシュでもしようかと思っている。
まだ何も思い出せなくて焦りもあるが、それでは精神が参ってしまうからだ。須藤とも約束している通り、無理はしてはいけないからだ。
その須藤は、昨夜だけは帰ってくるのがかなり遅かった。事前に日は跨ぐと連絡があったが、帰ってきたのは四時前だ。以前までの須藤は、それが常だったが、最近は早く帰ってくれていることもあり、遅いとやはり寂しさで心が萎む。もちろん本人には言わないが。
今朝は起こさないようにするつもりでいる。いつもは佑月の趣味で、起こしに行っているようなものだからだ。
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