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第194話
朝ご飯の用意をしようと思い、佑月は定番のスクランブルエッグを作ろうと冷蔵庫を開けた。
「あ……っちゃー」
佑月は冷蔵庫を開けたまま、頭を抱えた。
「昨日で卵切らしてたの忘れてたぁ……」
ゆっくりと扉を閉めて、項垂れながらも佑月はエプロンを外した。卵は朝食には絶対に必要だ。
佑月はメモ紙にコンビニに出かける事を書くと、スマホと鍵を持って部屋を出た。
まだ梅雨真っ只中だが、今朝はよく晴れている。湿度が高めで肌にまとわりつくような空気だが、久しぶりの青空に佑月の心も軽くなっていく。
街路樹には白やピンクなどの木槿 の花が咲いている。
日々注意して見てこなかった景色の変化。こうして歩いていると、色々な発見があって楽しかった。歩道を行き交う人々は仕事へ向かうためか、誰もが足早に歩いている。佑月は邪魔にならぬよう、端に寄って歩いた。
(昼からゆっくりと歩こうか)
そう決めると佑月も気持ち足早にコンビニへと向かった。卵だけ買うつもりが、色々と目移りし、デザートやスナック菓子まで購入してしまう。
(やっぱり腹減ってる時に買い物するとダメだな……)
自分を叱りながら佑月はマンションへと急いで戻った。
部屋を出てから十分程しか経っていない。だから須藤はまだ寝ていると思ったが、リビングの扉を開けると須藤がカウンターキッチンに立っていた。その手には佑月が残していったメモ紙がある。
「おはよう、起きたんだね。ごめん、メモにある通り、卵切らしてしまって今買ってきた」
コンビニ袋をかかげて佑月は須藤へと笑みを見せた。須藤は佑月を見て安堵の表情を浮かべる。
佑月を狙う人物は今はいなくなり、一人で動いても大丈夫なのだが、やはり須藤はまだ完全には安心しきっていない様子だった。
「直ぐにご飯作るから──」
待っててと言おうとして、佑月はある異変に気付いて、動きを止めてしまった。
「どうした」
須藤が心配そうに佑月に声をかけながら、コンビニの袋を持つ。そして中身を覗いて、少し口角を上げながら須藤は卵を冷蔵庫の中へと入れてくれた。
「ありがとう……。仁、今日は……なんて言うのか、すごくラフな格好だね」
黒のサマーニットに、黒に近いチャコールグレーのパンツ姿。シンプルなコーデなのに、とてもシックで魅力的に見えるのは、本人がとてもセクシーだからだ。モデルもきっと裸足で逃げるだろう。佑月もすっかり見惚れてしまっている。
「今日はゆっくりしようと思ってな」
「……ゆっくり?」
須藤が頷く姿を呆けた顔で見ていたが、それは徐々に佑月の中で高揚感が湧き上がってきた。
(それって、午前中は仕事に出ないってことだよな?)
佑月の中で、須藤が一日休むという事が頭にない。だから午前中だけゆっくりするのだと思った。それでも佑月にとっては嬉しい以外ない。
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