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第195話
一緒に朝食を食べ、食べ終わった食器を食洗機へ入れ終わると、佑月はそっと背後へ振り返った。
ソファで寛ぐ須藤の姿を見ていると、にわかに焦燥感に襲われるようになった。
(何だろう……この感じ)
皿を洗い終わったら佑月も須藤の隣で寛ぐつもりでいたが、頭痛もしてきたため、ペットボトルを手に持つと、一旦部屋へ行くことにした。須藤がチラリと佑月へと視線を向けていた事には気付かずに。
最近では自分の部屋に入るのは、着替えを取りに来る時だけだ。
佑月は自分の机に置いている薬箱の中を開けて、鎮痛剤を取り出した。一錠口に放り込んで水で流し込む。
そして佑月は何となしに、久しぶりに自分の机の椅子を引いて腰を下ろした。
長い間使用していないプライベート用のパソコンの電源を入れる。記憶が戻ってから、当たり前のように須藤の主寝室で過ごしていたため、パソコンなど触る機会がなかった。でも、記憶がなかった頃の自分は絶対にこの部屋での生活が主だったはずだ。
「なんでそこに気づかなかったんだ……」
何か手がかりがないか。佑月は閲覧履歴などを見ていった。
「……」
そこで、あるサイトのページを見て、佑月は固まった。
心臓が頭の中にあるのではと思うほどに、大きな拍動の音が響く。
〝それは〟何事もなかったかのような顔をして、佑月の脳内にいる。ドラマのように強い衝撃があって、フラッシュバックがあってというものを想像していた。だが現実は〝あ、そう言えばそうだった〟という軽い感覚で蘇っていた。
そして佑月の両手が小刻みに震え始める。震えを抑えようと、両手を握ったり開いたりするが上手くいかない。諦めて佑月は震える右手で机の引き出しを開けた。中にある細長い紙袋をそっと取り出すと、佑月は中の紙が二枚入っていることを確認する。
「……っ……う……」
我慢しようと思っていても無理だった。この二ヶ月分の記憶はあまりにも辛いもので、感情をコントロールすることはどうしても難しすぎたのだ。
自分もある程度は覚悟していた。須藤の記憶がない自分が、須藤と初めから友好的な関係を築いていけるはずがないと、予想もしていた。
初めて出会った時も、須藤のことは苦手で近寄りたくもなかったのだ。傲慢で自己中な強引さに反発もしていた。しかし結局は須藤という男に落ちていった。でもそれは、そこへ行き着くまでの過程がちゃんとあるからだ。だから今では冷たくしていた時の事も懐かしいと笑える。
だが、今回のことはそうではない。佑月に記憶がなかったから仕方なかったにしろ、須藤からすれば佑月は変わらず恋人なのだ。そんな恋人 から心無い言葉を投げつけられた。あの須藤が体調を崩してしまう程に酷く傷つけたのだ。
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