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第14話 白昼夢
「母さん、風邪ひいたみたいだし、今回の発情期重いから、終わるまで学校休むな。今回だけ」
「えっ。大丈夫? 今まで、発情期に休んだ事ないわよね」
「うん。どうせ行っても保健室だから、風邪で休む」
「風邪薬、貰ってくる?」
αの医者の親戚に、貰ってくるかどうかって意味だ。
小学生に上がる時の血液検査以外で、Ωだとバレる事はほとんどなかったけど、用心深い両親は、なるべく普通の医者に近寄るなと俺に言い含めてた。
『Ωである俺』を守ってるつもりなのかもしれないけど、そんな風に隠される俺の気持ちを理解してない。
「いや。薬箱にある風邪薬飲んで治すから、いい」
朝飯の皿をシンクに運びながら、嘘を吐く後ろめたさに目を逸らして話す。
「そう? じゃあ、抑制剤を飲んで、今日は寝てなさい」
そう言って、母さんは仕事に出かけていった。
抑制剤は、朝起きてすぐに飲んでる。
制服に着替えて学校まで歩かなくていい分、身体は楽だった。
そのまま部屋に行って、ベッドに潜り込む。
「綾人……」
――ピンポーン。
瞼を閉じたけど、すぐにチャイムで起こされる。
誰だ? 母さん、忘れ物でもした?
「はい」
カメラ付きインターフォンを覗くと、良いスーツを着た大柄な人物が立っていた。
直接掴まれたように、心臓がきゅうっと縮こまる。かと思ったら、ドクドクと身体中が鼓動を打った。
『俺だ』
「綾人? どうした?」
『どうもしない』
昨夜(ゆうべ)の俺の台詞をそのまま、真似される。
でも俺は笑う余裕もなく、焦っていた。
理事が一生徒の家を訪ねるなんて、バレたらヤバいだろ。
追い返すって選択肢もあった筈だけど、その時は思い浮かばず、俺は慌ててオートロックのドアを開けた。
「早く入れよ。見られねぇ内に」
* * *
もう一度チャイムが鳴り、俺は待ち構えていて玄関を開ける。
「四季、会いたかった」
「馬鹿、もう少し早かったら、お袋が出てる所だぞ。来るんなら、電話くらいしろよ」
「ああ、すまない。どうしても会いたくて」
「こっち。俺の部屋」
机とベッドと、作り付けのクローゼットだけの部屋に導いた。
客用の倚子なんてないから、並んでベッドに座る。
「ウーロン茶で良いか?」
飲み物を出そうと立ち上がりかけたら、思いもかけない強い力で、ぐいと手首を引かれた。
弾みで、俺はベッドに横たわる。
「四季。キスしたい」
俺はポンと赤くなった。
「な……約束しただろ。発情期が終わるまで、駄目だって」
「すまない。我慢出来ない」
言葉には、隠しきれない雄の熱がこもっていた。
「んんっ!」
抗議を上げるが、酷く情熱的に唇が重なって、角度を変えて何度も愛おしまれる。
俺は、目眩が止まらなかった。熱い舌が入ってきて、何が何だか分からなくなるくらい、器用に口内で暴れる。
「ん……はぁ」
頭の片隅では駄目だと思うのに、身体が言う事をきかない。夢中で、綾人の項に腕を回す。
チロリと舌を出すと、吸われ、舐められ、甘噛みされた。
「ア! や、駄目っ……」
いつの間にか、ハーフパンツが脱がされていた。下着の上から、捏ねるように分身が刺激される。
「嫌、だ……っ」
耳の穴に直接、いつもより低く掠れた声が吹き込まれた。
「嫌じゃ、ないだろう……? もうカチカチだ」
下着の中に大きな掌が入ってきて握られ、言葉通りに分身が痛いほど勃ち上がっているのを知る。
「ヒ……ん」
駄目だ、まだ綾人と番うって決まった訳じゃないのに……理事と生徒なのに……バレたら、綾人が捕まるのに……!
俺は弱々しく首を横に振って、何とか駄目だと訴えた。
でも興奮に息を荒くした綾人には、届かない。
「凄いな。もう先っぽがびしょびしょだ」
「ヤッ・あ・んぁっ」
緩急をつけて巧みに扱かれ、俺はついに陥落した。綾人の手と動きを合わせて、腰を前後に振る。
ナベの時と違って、とんでもなく気持ちいい。
俺の涙ぼくろに口付けて、綾人がウットリと言った。
「可愛いな、四季。イイだろう?」
「ん・イ・イイッ、イっちゃ……」
綾人の大きな拳は、熱くて器用で限界だった。
「綾人、イく・イっく……」
「イくと良い。沢山出せ」
「あ・あ――……っ!!」
目の前に火花が散った。俺は腰を動かして、出し切るまで胸を喘がせた。
「ふ……」
生理的な涙が一粒、涙ぼくろを濡らす。
「……ん……?」
硬く目を瞑って出し切ってから、異変に気付いた。
「綾人……?」
俺に覆い被さって荒い息を吐いていた筈の綾人は、何処にも居なかった。
布団の中で、俺は一人下着を濡らしていた。
「……夢……?」
ホッとしたような、ガッカリしたような、複雑な感情が交錯する。
綾人を受け入れたいけど、現状では幸せになれるとは思えない。
綾人。俺、あんたの夢見たよ。
だけど、こんなに切なくなるとは思わなかった。
前も後ろもびしょびしょで、俺はベッドを出ると風呂場に向かった。
それから、うとうとする度に綾人の顔がチラついて、ゆっくり眠れなかった。後ろはきゅうきゅうと収縮して、否が応にも綾人を意識してしまう。
抑制剤をもう一錠飲んで、ようやく俺は、夢を見ずに深い眠りの淵に落ちていった。
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