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それが、今から数週間前の出来事。あれから俺は一度も保健室に顔を出していない。
「珍しいなうさぎどん、教室でメシ食ってるのか」
「他の場所は全部ぼっち飯の人達に取られていたんですよ、わんこどん」
「どうでもいいけど、俺と理音のラブラブランチタイムには入れてやらないぞ」
「わかってまーす、別に入れてほしくないでーす」
「じゃあ何故一つの机に三人で向き合ってメシを食ってるのか、この状況の理由を簡潔明瞭に説明しろ」
「理音くんのきれいな顔を見てると食が進むからでーす、俺のことはほっといていいよ」
「……あのさぁ」
呆れた声で俺とワンコのやりとりに突っ込んだのは、理音くんだった。
ワンコと理音くんは、毎日母親の手作りだという美味しそうな弁当を食べている。俺はいつも、コンビニか購買で買ったパンだけど。
俺の母親はシングルだし、水商売してるから弁当作る余裕って無いんだよな。なんて、ただの負け惜しみだろうか。(そういえば、ワンコの家もシングルか)別に今更母親に作ってほしいなんて思ってねぇけどさ。
「宇佐木にそんな意地悪しなくてもいいだろ昂平。宇佐木もそんな色んな場所に行ってたってことは、最近保健室に行ってないのか?」
「うん。小野先生に来るなって言われたから」
失恋したから、とは言わない。
けどワンコよりかは勘のイイ理音くんなら、すぐに気付きそうだ。
「なんで?」
「なんでだろうねぇ」
理音くんは俺をじっと見つめていたけど、それ以上は何も聞いてこなかった。
ワンコだけは一人頭にクエスチョンマークを浮かべて俺と理音くんを見くらべている。本当に残念な奴だな。
とりあえず俺は、話を変えることにした。
「そうそう、先週はバレーの試合お疲れ様。勝ってよかったね」
「おお、宇佐木もカノンのお守りしてくれてサンキューな! まじ助かったわ。さすがに小学生を一人で高校なんかに来させらんねぇからな」
「あんな可愛い子のエスコートならいつでも引き受けるよ。ね、カノンちゃん家で俺のことちょっといいなーとか言ってなかった? 年上のお兄さんどうかな?」
「それは無い。宇佐木は男しか好きになれない奴だからって最初に言っといたから」
「ちょっ……マジで!?」
だからあの子俺と手ぇ繋ぐのもそんなに嫌がってなかったのか! ノーカウントにされた的な……。
たしかに俺は男しか好きになれないけど、あんなに可愛い女の子相手だったら、ちょっと憧れのおにいさん的存在くらいにはなりたかった……ああ、カノンちゃんもブラコンだけど、理音くんも相当なシスコンだな。
「ナイスだ、理音!」
「うるせーなワンコ」
お前もシスコンかよ。(ワンコの妹じゃないけど)
「そーいや、千歳くんがさ」
「おー、マジで来てたな千歳シンジ! 遠くからしか見てないけど、本物もちょーかっこよかったー!!」
「宇佐木の連絡先知りたがってたから、教えてもいい?」
「……はい?」
なぜ今をときめく大人気ファッションモデルの千歳シンジが、どこにでもいるようなごくごく一般的な高校生(金髪でちょっぴり珍しいかもだけど)の俺の連絡先を知りたがるなんて事案が発生するのでしょうか。
誰か教えてクダサイ。
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