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 さっそく千歳シンジからメールが来たのは理音くんにメアドを教えたその晩だった。  俺も返事をして、明日仕事がないらしいので早々と次の日の放課後に会うことになってしまった。  昨日の今日って。大丈夫か俺。いや、何が大丈夫なのかって……  だって相手はあの、俺の憧れの超人気モデル・千歳シンジだぞ!?  俺みたいな一般人がこんな簡単に会えちゃっていいのかっ!?  いや、いやいや。  向こうが会おうって言ってくれたんだ、何を躊躇するものか。俺は受け身、あくまで受け身の立場なわけよ。ネコとかタチの話じゃないよ? まー俺はバリネコだけど!  朝からテンパりまくって、授業なんてさっぱり頭に入んなかった。昼休みは自分の机でメシ食ってたけど(俺がその場から動かなかったからわざわざ理音くんが来てくれた。ワンコは理音くんに付いてきただけ)そこで二人がオカズの食べさせあいっこを目の前で繰り広げてても、何も突っ込む気は起こらなかった。  でも今度やったら目の前で交換しあってるオカズをばくりと横から食べてしまおうと思ってる。漁夫の利ってやつだ。 ……ちょっと違うか。  そして、放課後。  俺と千歳くんは、駅前のスタバで待ち合わせした。現役の超人気モデルがこんな人に見つかりそうな場所に来てもいいのだろうか……?  ちょっと、いやかなりドキドキしながら、俺は先にカフェモカを注文して窓際の隅の席を取っておいた。 「はー……」  でも、不思議だ。こうしていると、小野先生に振られたこと忘れていられる。  そういえば俺、失恋したのに泣いてないな……。  中学のときに色んなひととイケナイ遊びしすぎて、振られても涙なんて出なくなっちゃったのかな。はは、そんなんで先生のこと本気で好きだったとかって笑える。俺、ホントにあの人のことそんなに好きだったのかな? って。  なんか、よくわかんなくなってきたな……。 「や、お待たせっ!」 「え?」  顔をあげたら、とんでもないキラキラしたイケメンが俺を見降ろしていた。  《ガタタッ!!》 「ち、ちちち千歳くん……ッ! いや、千歳さん! は、初めまして」 「どっちでもいいよ、ていうかシンジでいいよ。えーとウサギくん。下の名前は葵だっけ? あおいって呼んでいい?」 「は、はい!」  うわ、わ、本物の千歳シンジが俺の目の前にいる……!  つーか俺にしゃべりかけてるー!!  すご、顔ちっちゃ、背ぇたっか、身体ほっそ、脚なっが、それからそれから…… 「そんな緊張しないでいいって! RIONだって普段はふつーの高校生なんだろ? 俺だってそうだもん。学年はいっこ上だけどさ」 「そ、そうですけどっ……」  理音くんの場合、ワンコというワンクッションがあって接触してるから……! こんな一対一でいきなり会うって体験してないからぁぁ!!  それに俺、ファッションはRION系統で着てるものとか参考にしてるけど、千歳シンジはこんな風にはなれないけど憧れてるモデルっていうポジションだし! なんていうか、憧れてはいるけど馴染みはないんだよ!!  千歳くんは俺の目の前に座って、ニコニコと何故か上機嫌だ。もちろん周りの人たちも徐々に気付きだして、 「ねーあれもしかして千歳シンジ!?」 「うそ、本物!? まじイケメン!! やばい!!」 「一緒にいるの友達かな!?」  なーんて騒ぎだしてます。  俺と一緒にいるどころじゃないよ?

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