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「あのっ千歳くん! 一緒に写真撮ってもらっていいですか?」 「あーごめんね、今プライベートだからさ」 「す、すいません……!!」  勇気を出して声をかけてきた女性を、千歳くんは軽くあしらっていた。それを見てか、もう店の中では写真や握手を求めてくる人はいなくなった。けど相変わらず無遠慮に向けられる視線は感じる。でも千歳くんはまったく気にしていなかった。  すごいな、見られることに慣れてるんだ……さすがモデル。  そして俺達は、まずは共通の話題で盛り上がった。 「RIONってさ、学校でも昂平とラブラブなの?」 「あ、ハイ。見ててマジうざいくらいっすよ」  ちょっとくらいあいつらの愚痴を言っても構わないよな。 「ははっ! それはウザいな。――そういやあおい、試合の日RIONの妹と一緒にいたでしょ。まだ小学生みたいだったけどすごい可愛くなかったか? ツインテールとかしちゃってさ。名前は何ちゃんなんだ?」 「カノンちゃんですよ、花の音って書いてカノン」 「へーカノンちゃんか。いいなぁRION、あんな妹がいたら一緒に買い物行って荷物持ちでもなんでもやるわ俺。お小遣いもいっぱいあげちゃうかも」 「それは俺も同意見ですね。性格も可愛かったですよ。すげーブラコンだけど」  将来の彼氏が苦労する様が目に浮かぶようだ。  というかお兄ちゃんがかっこよすぎて……彼氏とか、できるのか? 「あーそれもいいな、ブラコンって。兄を自分に置き換えてみると」 「そうですね……ますます理音くんが羨ましくなりますけど」  俺達はしばし、目を閉じてカノンちゃんに『お兄ちゃん』って呼ばれる自分を想像してみた。うーん、萌える。年の離れた妹、いいな……。  でも『お兄ちゃん』もいいけど、俺は『ウサギさん』って呼ばれるのもなかなかクルものがあった。確かに俺は『宇佐木』だけど、カノンちゃんは完璧に『兎』のアクセントで呼んでたもんな。もう可愛いしかない。 「あのさ、あおい」 「はい?」 「俺のことシンジって呼んでよ。で、敬語もやめてくれる?」 「え……っ、でも」  千歳くんは一応、年上だし……タメ口ってのは……。 「なんか壁を感じるんだよーっ。いいから、な? 俺もっとあおいと仲良くなりたい」 「そ、そう? じゃあ、……シンジ」  そこまで言ってくれるなら遠慮なくそう呼ばせてもらいます。だって年上のいうことには逆らえないでしょ。  それにしても、理音くんでさえ『千歳くん』って呼んでるのに、一般人の俺が呼び捨てなんかしちゃっていいのかな……恐縮だ。

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