6 / 52

6

「ところであおいも、RIONに失恋したクチなの?」 「えっ?」  なんかすごくさらっと聞かれたんだけど。俺が理音くんに失恋って……なんで? 「あれ、違った? いや、さっき俺が声かける前なんかすっげー思いつめた顔してたから失恋でもしたのかなーって思ってさ。違ってたらゴメン!」 「……失恋は、あってる。けど相手は理音くんじゃないよ。そういえば前に理音くんにも勘違いされたことがあったなぁ、俺がワンコのこと好きなんじゃないかって。いや、ワンコが俺のこと好きなんじゃないか、だったかな……」 「あははっ、何だそれ! RIONそんな勘違いしてたんだ!? マジウケるし……その話も詳しく聞きたいところだけど、俺は今はあおいのことが知りたいな。あおいを振った相手はどんな奴なの?」  なんで、そんなに俺のことが知りたいんだろう。それにさっき『あおいも』って言ったな、シンジ……ってことは、シンジは理音くんのことが好きだったんだ。  まぁ、あのブログの一件でなんとなく分かってたけど、冗談とかじゃなかったんだな。 「うちの学校の保健室の先生……オトナの男の人」  何故か俺は、馬鹿正直に答えていた。 「へぇ、あおいは大人の男が好きなんだ。もしや老け専?」  相手が男、ってとこには特に突っ込まないんだな。俺がゲイってのは最初から分かっていた? そういえばシンジはゲイ……いや、バイ? 「別に老け専じゃないし。ただ、高校生は子どもっぽくてそういう気が起きないだけだよ」 「それって俺も子どものうちに入ってる?」 「え?」  なんで、シンジはそんなギラギラした目を向けてくるんだろうか。  どこにでもいる、一般人の俺なんかに。  ヤバい、なんかドキドキする。 「シンジは高校生には見えないから……べつに、」 「ハハ。それはあおいの範囲内って受け取ってもいいの?」 「好きに、取れば」 《ギュッ》 「!?」  いきなり、テーブルの上に置いていた手を握られた。思わずびくっとして手を引こうとしたけど、シンジの力は意外と強かった。 「似たようなタイミングで失恋した者同士、仲良くしよ? あおい」  自分の持っている武器を全て晒して俺なんかを誘うなんて……。  失恋の傷を癒してくれる相手なんか他にいくらでもいるだろう、千歳シンジ。  なんで俺?もしかして俺、ホントにシンジに見初められたんじゃ――  そんなおめでたい勘違いをしかけた俺の耳に、隣の席の女の子たちの会話がやけにするっと入ってきた。 「ねぇ、千歳シンジと一緒に居る子さ、ちょっとRIONに雰囲気似てない?」 「ほんとだー、RIONがモデルしてるブランドの服着てるし、綺麗系だね」  俺がシンジに見初められたとか、そんなわけはなかった。  俺は理音くんの代わりってわけね。 それでも…… 「いいよ」  大人気モデル様の失恋した相手の代わりになれるなんて、光栄です。  俺は握られた手を軽く握り返して、千歳シンジからの誘いを受けた。

ともだちにシェアしよう!