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それから俺は――まるで俺じゃないみたいに喋った。陽気で明るくて、少し生意気で……小野先生が理想とする、『良い生徒』になりきっていた。 どうして自分がそんな行動を取ったのかは分からない。奥さんになる人に、生徒と接してる先生はこんな感じだよって見せてあげたかったのか?それとも、もう先生のことなんてなんとも思ってないよって主張するため? 多分、どっちもだ。 「この金髪は宇佐木って言うんだけどな、どれだけ俺が毎日世話してやったか……友達が一人もいなくて毎日保健室登校でな、」 「うわ、しっつれーだな先生!保健室に来るのは昼休み限定だっただろ、しかもそれは俺が保健委員だったからだし!それに俺にもちゃんと友達はいますー!」 「お前友達いたのかよ?あまりにも入りびたってるからてっきりイジメられてるのかと」 「こんな金髪美人をいじめる奴はいません!」 「自分で言うな。……ああ、そういや猫田や犬塚と仲良かったっけな……」 先生には、前に理音くんとワンコが修羅場ってるところを見られた。でも先生はそのあと俺が保健室に行っても、そのときのことについては何も聞かなかった。 俺はいつも先生が煙草を吸いに行ってる間のお留守番をしているだけだったけど……。 先生が出ていくのは、俺と同じ空間にいたくないだけだったのかもしれない。けど、少しは頼りにされてるんじゃないかって、思ってた。おめでたい思考回路だ。俺の気持ちは先生にとって、迷惑でしかなかったのに……。 「あのぅ千歳くん、記念に写真撮ってもいいですか?よければ二人で!」 先生の彼女がうきうきしながらシンジにそう言った。 「いいですよ。……いいですか?先生」 「いいよ、つーか悪ぃな。俺の生徒でもないのに」 「いえいえ、あおいの知り合いですから」 シンジは今日、誰に声をかけられても『プライベートだから』と握手や写真を断っていた。 けど、先生の彼女には……俺と先生が知り合いだからって、愛想よくしてくれてる。こういうの、なんていうんだろう……義理難い? 「きゃーっ憧れの千歳シンジと2ショットだなんて!明日職場で自慢しちゃおーッ」 「おまえそいつを知ってるってことは、猫田理音のことも知ってるのか?」 「ねこたりおん……?りおんってまさか……RION!?」 その名前を聞いた途端、彼女の声のトーンがぐわっと変わった。 「お、やっぱ知ってるのか。そのリオン……猫田も俺の生徒なんだ」 「ぎゃーッッ!!RIONって東谷高校の生徒だったのぉ!?うそぉーっっ!!今度サイン貰ってきて!!本気で!!知ってるどころじゃないわよ大ファンだわよ!!千歳シンジとの2ショットなんてホントに涎が出そうなくらい美しいんだからーッッ!!」 うおお……テンションやばい。やっぱり理音くんのファンってこの年代の女の人に多いんだな……歳上受けするって言ってた。 つーかシンジ、笑ってるし。 「じゃあ、僕らはそろそろ行きますね。一応、お忍びというか、プライベートなので」 「あ、ああっごめんなさい!大声ではしゃいじゃって!!」 「いいえ。これからも僕とRIONの応援をよろしくお願いします。デートの続き、楽しんでくださいね」 「はいっ!」 さすがお仕事してるだけあって、シンジは話し方も立ち振る舞いも、俺と同じ高校生とは思えなかった。俺の腰を女にするみたいに自然に抱いて、『行こう、あおい』と耳元で囁く。 その声を聞いた途端、俺の喉の奥でヒュッと変な音がして……、 いつもの自分に戻って行く感覚がした。

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