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でも、ある時から葵が俺に靡いてくれないのは警戒心があるからだけじゃない、と思うようになった。
一緒に居る時、ぼんやりと空を見つめていたり、街の中でいきなりハッと振り向いたりするんだ。その時は誰か知り合いに似た人でもいたのかなと思ったけど、すぐにピンときた。
葵は、まだ好きだった奴のことを忘れていないんだって。
街で見かけたのはただの他人の空似だったんだろうけど、その後の葵の表情は、今にも泣きだしそうで……でも俺は、そんな葵の態度に気付いてもどうしてやることもできなかった。
ねえ葵、俺を見てよ。
今一緒に居るのは、俺だろ?
そんな小さなことを思うだけ。そしてなんとか葵を自分の方に振り向かせたくて、またセックスをしてしまう。葵は何も言わないけど、少しずつ俺のことを好きになってくれているような気がした。
『付けこむ隙は与えてやる』と言った、あの言葉通り。俺は自分の魅力を最大限に駆使して、葵の隙に付けこんでいる。
仕事が無い日は必ず会いに行って……というか、会いたくなったら仕事のあとでも会いに行った。優しいキスをして、甘い言葉を掛け続けた。『あおいのことが好きだよ』と。
けど、まだまだ足りない。もう少し、まだ少し押さないと、葵は俺のところには落ちてこない。好きだった奴が忘れられないのもあるだろうけど、何より俺が信用されてなかった。
だから今回、RIONと昂平に協力してもらった。馬鹿みたいな作戦だけど、葵にはまず俺の気持ちを信じてもらうところから始めないと……。
夕方以降にしか会ってくれないのは、俺のことを気づかってのことだろうとは気付いていた。だから、昼間に会ってラブラブしちゃっても、俺はバレても平気なんだよって。それだけ葵に本気なんだよって、伝えたかった。
作戦は成功したと思った。昂平とアイコンタクトを取って、RIONと葵が苦手とするホラ―ハウスに連れ込んだ。恐がらせて、泣かせて、またそこに付けこんで、俺から離れられないよう依存させて。あんな状況で愛を囁けば、落ちない奴はいないだろ?
そう思ったのに。
『小野……先生?』
そこに何の冗談か、葵の好きだった奴が現れたんだ……。
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