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第8話

十七番街……通称、テェル通り獣人達が住まう街。 俺は幼い頃外出を禁じられていた。純血人類のオメガは、営利目的の誘拐事件が多発しているからだ。そうならないよう純血人類のオメガは、幼少期を家の中で過ごす。 「僕だってフロエ・クフォード家の人間なんだ!」 「……トウヤ様! 何をなさっているのですか!」 「五月蝿い! おまえだって僕を厄介者だと思っているくせに!」 掴んだ花を怒り任せに投げ付ようとした。その腕を掴まれ、左頬に鋭い痛みを感じた。目の前に立つ人物は、頬を打った手を固く握りそこへ片膝を突いた。目線が合い、睨むと今度は右頬を叩いた。 「……分かりますか! これは貴方が花に与えた痛みです!」 無残に引きちぎられたフリージアがあちこちに散らばっている。 「あ……タク……」 叩かれた両の頬に触れた。その痛みより心が激しく痛んだ。大きな腕が涙を溜めている俺を引き寄せ抱き締めた。 「これ、ちゃんとごめんなさいしましょう。私も手伝いますから」 「……ご…ごめん…なさい……」 幼い俺はあの時、初めて人が温かいんだと知った。  勉強も運動も頑張らなくていいと言われても必死でやった。兄達よりも優秀になりたかった。俺はここにいるって言いたかった。俺は兄達より優秀に容姿も兄達より美しかった。 なのに……父は誉めてくれなかった。逆に怪我をして傷物にならないかと心配してたらしいが…… 兄達は俺を邪険にし話すらしなくなっていった。 売り飛ばされる許嫁は醜いカエルだと知った時は死のうかと思ったが、こんな場所にいるよりかはマシだと思っていた。あの事件以来、訪ねてこない。父も俺にリュウの話を言わなくなった。  俺はこの家で一人のままだ……  学園でも陰で俺を悪く言っているやつなんて山程いる。「獣人の子を宿す気味の悪いの子」だの「国の税金使い」だの。俺は好んでオメガに生まれた訳じゃない! 「リュウ、おまえが俺を捨てたくせに!」    待っても待っても、俺を迎えにくることはなかったっのに今更なんなんだ! 俺を見る純粋な瞳には嘘がなかったんだ。リュウも皆と同じだったって事なのか? 誰も本当の姿なんか見ていない。俺はオメガである前に一人の人間なのに……  

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