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第5話
海星学院は、中等部、高等部、総会や式典などを行う為の講堂と、先生達の使う職員室の入った校舎との4棟に分かれていた。
僕が向かっているのは、職員室のある校舎で、そこの3階にカウンセリングルームがあるんだけれど、今日は先約がいて同じ階にある別の部屋へと向かう。そこには、僕と同じように、教室へ行けない生徒達が何人かいた。
「あれ、今日はこっちにいるんだ?…あ、そうか、今日は高等部の人がカウンセリング受ける日か。」
そう言うのは、僕とは違うクラスの生徒で、北村くん。同じように教室へいけなくなって、今年からこの部屋に来ていた。
「そういえば、丸メガネの姿がないね?今日は休みかな?」
「………」
丸メガネと言うのは、日下部くんの事らしいけど、本人は知らない。日下部くん以外に通じるあだ名で、日下部くんの話をするのは、嫌な気分になる。だから、僕は知らない振りをした。
しばらく黙っていると、北村くんは窓際の席に移って行き、僕の回りには誰もいなくなってしまうが、日下部くんが来たのは、それからすぐ後の事で、北村くんは、チラッとこちらを見たけど、何も言わなかった。
昨日の晩に、日下部くんには謝りのメールをしておいたので、僕の隣に来ても「おはよう」と、あいさつをしただけ。特に文句を言われる事もない。
僕たちは、あまり干渉されるのが得意ではないので、いつもこんな感じ。何がどうしてこうなった、なんて事を力を入れて話さないんだ。
だから、僕が受けた辱しめの事は、誰も知らない。それに、知られても何かが変わる訳じゃないから。
変わるとしたら、着信音を消したメールの画面を開く時かもしれない。
さっきからメール受信のランプが点滅していたけど、教室で見てはいけないので、後からトイレにでも行って見てみようと思う。
ここに日下部くんがいるって事は、多分だけど、昨日の友田さんしかいない。お母さんは僕が学校にいる時間にメールをしてくる事はなかったから。
そう思うと、今まで味わった事がない様な、全身がくすぐったくて、秘密めいた事をしている感情に心が揺れた。
返事とかした方がいいのかな?なんて、まだ内容を見てもいないのに考えてしまう僕は、どこか変だった。
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