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第12話

 帰りの電車の中で、花束を大事に抱える僕は、周りの人からジロジロと見られていたけれど、不思議と嫌ではなかった。 何故かはわからない。けど、美しい花束をみんなに見て貰いたいと思った。 花の名前はわからないんだけど、胸に抱えていると、僕の回りがいい香りに包まれて、気持ちも和らぐ。 …ただいま。 家に入ると、玄関でお母さんのハイヒールを確認する。今日は早かったみたいで。 「アラ、お帰りなさい。いい香りねぇ、どうしたの?」 早速花束に近づき、花の香りを吸い込んだ。 そういう時って自然と目を閉じて、顎が上がるんだよね?不思議だ………。 「三田駅でバスに乗り換える所の商店街に花屋があって、そこの人と知り合ったんだけど、……売り物にならないから持って帰ってって言われて。」 「あらそうなの?…はじめてね、アユが誰かの話をしてくれるの。…お友達になれたんだ?! よかった…。」 - お友達..…そう、友達になったんだ。 友田さんも、僕の事をお母さんに、友達になったって言ってた。だから、僕も言っていいんだよね? 「今日はアユの笑顔が見られて、お母さん早く帰って来たかいがあるわ。それに、アユには、花束が似合ってる。凄く綺麗なんだもの。」 お母さんは、いつもそういって、僕をぎゅッとするけど、もう中3だし、さすがに恥ずかしくて…。 それに、男の僕が綺麗と言われて嬉しいわけないのに…。自分が嬉しいから言ってしまうんだろうな。 「今日はハンバーグにしたから、たくさん食べてね?」 「うん。…花は花瓶に生けておくね?」 そういって、硝子の花瓶になんとなく色合いを考えながら生けてみた。 長さも調節しながら、バランスを考える。 …はぁ……… 意外と難しい。こんな事なら、花束の形をキープしたまま花瓶に入れるんだった。 せっかく友田さんのお母さんが、素敵な組み合わせにしてくれたのに…。 僕は、ハンバーグを口に運びながらも、目は花瓶の方を向き、頭の中で色のバランスを考える。 箱庭を作るより楽しいな、なんて思ったら、自然と口角が上がったみたいで、 「今日のアユは、なんだか楽しそう。」 お母さんが、僕を見て微笑んだ。

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