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第16話

 あんなに人目を気にしながら学校へ通っていた僕だったのに、今は嘘のように静かな毎日を送っている。 この一ヶ月、僕の回りに在るものすべてを放棄したら、こんなに身軽になれた。 ここは、僕だけが存在する場所で、ここに居れば迷子にはならない。 誰も僕の行動を気にするものはいないし、勉強だって比べられる事もないんだ。 誰かの為に勉強していた訳じゃないけど、自分の為でもなかった。時間が恐ろしい程あったから、使い方を知らなかっただけで…。 でも、時間があったとしてもパソコンに夢中になることはなかった。 パソコンの画面の中の知らない人たち。 彼らが何かを見せてくれても、僕の心は躍らない。人に見られる事が嬉しいだなんて、僕にはわからない。 ………でも、一つだけ羨ましいと思ったのは、みんなが笑いながら楽しめている事。 僕の持たない楽しい何かを この人たちは持っている。それが、どうしたら手に入るのか……誰も教えてはくれなかったけれど。 「アユ・・・お友だちがみえたわよ。」 お母さんが、扉の向こうで話しかける。 -ウソだ…僕に友達はいない。 日下部くんは、絶対にここへは来ないはず。だって、僕たちはそこまで相手の中に入り込まない。……困らせるのが分かっているからだ。 僕が黙っていると、コンコン、とドアを叩く音が…。 「佐々木くん、……」 -ぇ、……………? 僕を"佐々木くん"と呼ぶ人。 それに、この声は………。 「あのさ、…迷惑かと思ったんだけど、ずっと気にかかったまま過ごすのは、俺、苦手でさ、…直接顔見て話したいと思ったんだ。」 その声は、友田さんだった。 僕の頭の中は白いモヤがかかったままなのに、突然の友田さんの出現で更に深い霧まで立ち込めて来て…。 メールの返信をしないまま、すでに一ヶ月以上が経っていて、もう僕の存在は無くなったものだと思っていた。 会いたいのに、会いたくない人..................。 .............どうして会いに来たの?

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