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第20話
しばらく相談室にいた僕だったけど、お母さんや先生達の会話にはついていけなかった。
先日、籠っていた部屋から出てきて、さあどうすれば…と思ったばかり。
友田さんの顔を見て、少しだけホッとできたところだ。
あの後、充電して復活した僕の携帯に写った"カザミドリ"に「僕は、風に立ち向かえるだろうか…」と、聞いたところなのに。
お母さんは相談室から出ると家に戻っていき、僕は日下部くんたちがいる部屋へ行くことにした。
部屋に入る時、少しだけ緊張して足がすくんだ。みんなの視線を浴びるのでは…という思いが身体を固くして。
長い間顔を見せなかった僕をなんというだろう.....想像したら切りがない。
それでも、友田さんの顔を思い浮かべながら扉を開けてみた。
ほんの一瞬僕を見るけど、すぐさま視線をもとの場所に戻す生徒たち。日下部くんだけが、僕の姿を見て微笑んだ。
やっぱりホッとする。
多くの生徒は、僕に全く関心がないのだろう、いちいち休んだ理由を説明しなくてもいい。
ただ、日下部くんは友人なので、もし聞かれたら話そうとは思う。すべてを放棄して得たものがあったのかどうかを…。
「アユムくん、今日の帰りに買い物付き合ってくれる?前に行ったお店なんだけど………」
ごく普通に話しかけてきて、ずっと僕はここに居たような気がしてくる。
やはり日下部くんらしい。と思った。
ここで過ごすのは、いろいろな事が煩わしいからという生徒もいる。
自分の興味を貪欲に満たそうとするクラスメイトに、気を使わなくてもいいし、そんな彼ら達のストレスの捌け口にされるのは、たまったものじゃない。
ここは、ある意味避難場所。でも、それを知る生徒は少ない。
放課後、他の生徒達が帰っていなくなる頃、僕らは学校を後にした。
「家にいる間、楽しかった?」
夕闇が迫るバス停で、ふいに日下部くんが聞いたので、僕はううん、と首を横に振った。
「・・・ボクたちは、いったい何をすれば楽しいって思えるんだろうね?」
ポツリと口にする日下部くんは、丸い眼鏡の奥で寂しい目をしていた。
ふんわりとした見た目で穏やかそうな彼の心の奥にあるものが、いったい何なのか。
僕は、そっと見ないふりをして、首を傾げる。
相手の心に踏み込まない。.......それが暗黙のルールになったのはいつからだろう。
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