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第21話

 ”有楽街”の看板を見上げながら、僕は日下部くんと例のビルを目指して歩く。 途中、居酒屋の店員らしき人たちが〔呼び込み〕をしていて、僕の顔を見ると一瞬目が大きくなりビックリした顔をする。 そんな光景には慣れていたけど、僕はやっぱり目を伏せて歩いて行った。 ビルの中にある日下部くんの好きなお店に入ると、両側の棚には、びっしりと昔のおもちゃなのか古そうなブリキのモノや年季の入った箱に入れられた玩具が積まれていた。 目を凝らして物色している日下部くんには悪いけど、僕は全く興味がわかないんだ。 ぼやっとしながら遠くから見ていると、僕の後ろで大きな声がして。 「ぉおおおっ!こないだのっ!」 嫌な予感がするので振り返らないでいると、 「あ~ダメだ、ちょっかいかけるなって謙ちゃんに言われたんだった。」 ”謙ちゃん”という名前で、自然と顔を向けてしまう。 「あ、やっぱり、か。あん時の・・・」 僕の顔を見たその声の主は、やはり僕を裸にした人たちの片割れだった。 今日は一人だ。 もう、抱えて連れてはいかれないだろうと思ったので、怖かったけど逃げないで立っていた。 「もう、失神とかしないでね?どうしようかと思っちゃったじゃん・・」 人を裸にして写真まで撮っておいての言い草に、さすがの僕も腹がたって 「あんな事しょっちゅうしてるんですか?捕まりますよ。」 意外と冷静に言えたので、自分でも驚いた。 「いやいや、さすがにあんなのは初めてよ?きみがあんまり綺麗な顔なんで、ついでに肌も白いし、”アソコ”は何色か見たかっただけよ?」 語尾に付ける”よ”っていうのが、なんだかオカマっぽくて、ちょっとおかしくなった。 「・・・アユム・・くん?・・・」 紙袋を下げて心配そうに僕を見る日下部くんは、少し顔色が悪かった。 「あ、なんでもないから。・・・帰ろうか?」 僕はこんなに堂々とした人間だったろうか・・・ 前の僕は、きっと走って逃げるか、何も言えずに俯くことしかしなかっただろうに。 この人が、友田さんを知っているという事が、僕の中に沸き立つ怖さを少しだけ減らしてくれたみたい。 「あっ、ねえねえ、君たち暇ならこの上のカフェ行かない?謙ちゃんいるし。」 -カフェ・・・って、友田さんがアルバイトをしているというお店。 今日はバイトの日なのかな? 「この間のお詫びに俺がジュースおごるからさあ。ソレでチャラにしてよ?!」 「・・・お詫び?」 日下部くんは不思議そうに僕を見た。 僕が辱めを受けた事は知らないから.....。 「まあまあいいじゃん。そっちの丸っこいのも一緒においでよ。ね?」 僕は、なんとなく友田さんのバイト姿を見てみたくて、行くことにした。 もちろん日下部くんも、断れなくて付いてきたんだけど。 木枠のドア越しに、このビルにはそぐわないような自然素材の椅子とテーブルが置かれた店内が見えた。入口には観葉植物が並んで置かれ、カウンター席の隅には大きな花瓶に生けられたオレンジ系の花々。 すぐに、これが友田さんの所の花だって分かる。お母さんが同系色の花をバランス良く組み合わせていた。 その先に、白シャツと黒いエプロン姿の友田さんの後ろ姿が見える。 「よっ!謙ちゃん。」 その声に振り返った友田さんだが、隣にいる僕を見て息を飲んだ。 ものすごくビックリしていて、口が開いたままで、パチパチと瞬きだけを繰り返す。 ほんの数秒、その表情が自然と笑顔に変わるまで、僕は友田さんの目をみつめていた。

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