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第25話
翌朝、いつもの時間に支度をしていた僕に向かって
「アユ、今夜はお母さん遅くなるんだけど………。大丈夫?」
お母さんが食器を洗いながら聞いてくる。
- そう言えばレセプションのパーティーがあるって言ってたのを思い出した。
「うん、大丈夫だよ。今日の帰り、友田さんのバイト先のカフェで何か食べてきてもいい?」
「…ぇ、ホントに?…アユ、一人で行けるの?」
お母さんは、少しだけ心配そうな顔で僕を見たけど、そのうち目に涙が溜まりだした。
「あ…どうしたの?ダメだった?」
驚いた僕が聞いてみたら、お母さんは首をゆっくり横に振り、ううん。と言った。
「友田くんは、凄い力を持ってる人だね?…アユを大人にしてくれたみたい。」
鼻をすすりながら手を拭くと、僕の肩に乗せて言う。
中3の息子を”大人”って、・・・ちょっと照れくさくて、俯いてしまった。
「じゃあ、行ってきます。」
「はい、行ってらっしゃい。」
*
海星学院行のバスに揺られて、遠くの景色を眺めている僕は、昨日の僕とは違うのかも…。
背が伸びた訳でも無いんだけど、気持ちの中に何故かいる友田さんの存在が、昨日より僕を大きくさせていた。
知らなかった世界が、少しだけ開けた様な感じで…。
外は、木枯しが吹いていて凄く寒そうなのに、僕の心は暖かい。
澱んだ水に、綺麗な水を継ぎ足していったら、いつかは透明なものに変わるんだろうか…。
そんなことを考えながら歩く。
いつもの部屋に入ると、今日は日下部くんの姿は無く、北村くんと山本くんが同じ机で並んで座り、何かを見ているようだった。
僕は「おはよう」と言って席につく。
「あ、おはよ」
二人は僕を一瞬見ただけで、すぐに手元の何かへと視線を戻す。
- 日下部くん、昨日のアレで疲れちゃったのかな?
僕だって、湯船で寝ちゃったぐらいだもんな・・・
浩二さんて、なんだか疲れる。半分ぐらいしか話してる内容が掴めなくて.....。
クラスに居るみんなは、あんな風に話してるんだろうか・・・
僕のいるこの空間が静かすぎるだけなのか.......。
毎日あんな調子だったら、僕はきっと湯船でおぼれてるな。
取り合えず日下部くんが来るまで本でも読んでいようと思い、机に文庫本を広げたときだった。
「ねえ、佐々木くん見てごらんよ。・・・」
僕の広げた文庫本の上に北村くんが乗せたものを見て、僕は絶句した。
スマートフォンの画面に映っていたのは、上半身裸でキスをしている二人の男性。
見るからにヨーロッパの人種だろう、僕の様な茶色の髪でブルーの瞳の男性だった。
「これ、佐々木くんみたいだね?!こういうの、した事ある?」
「.....................」
ドキリとした。
こんなのした事も見た事もなかったけど、なぜか友田さんの言葉が頭に浮かんで...。
”男が好きかも・・・” リアルにあの意味が分かった。
僕に触りたいって言ってたのは...........
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