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第30話

 こんなに美味しいシチューは食べた事が無いってぐらい、美味しく思えたのはきっと二人で作ったからだと思う。 だって、ルーは市販のいつものやつだから....。 「どう?美味い?」 僕の顔をしげしげと覗いて聞くから、リアクションに困る。 あまり大げさなのは、ウソっぽいし... 「はい、今までで一番美味しいデス。」 - これはホント - 「そうだろ、沢山作ったからお母さんにも食べてもらって。」 そういうと、ご機嫌な顔でシチューのお代わりをしていた。 楽しいな。数時間前にあんな事があったのに、今が幸せだと前の事を忘れてしまいそう。 友田さんといる時間がどんどん楽しくなる。 二人の会話と言っても、花の競りについていった時の話とか、バラのとげを取るときに素手でざーっと茎を撫でるとか、ハーブティーにする花の種類とか、大抵は友田さんの話を僕が聞いているんだけど、僕の目を見てニコニコ笑って話してくれるから、楽しくなるんだ。 前は人の目を見て話すなんて出来なかった。自分の瞳を興味ありげに見られてるのが分かるから、いつも下を向いてしまってたんだ。 でも、友田さんは僕の瞳を好きだと言ってくれて、俯かないで見せてと言ったから、僕も見てほしいと思ってしまった。もっともっと見ていてほしい........。 満腹になるまで食べた僕たちは、自然と置時計に目が行った。 9時35分・・・そろそろバスの運行が終わる時間。 ちょっとだけ、胸がキュンとなる。寂しいような不安に押しつぶされる様な・・・ 「え、っと、お母さんは何時に帰って来る?」 「・・・・パーティーなんで・・・わかりません。泊まるときもあるし。」 メールがきていないか見てみるが、”遅くなるから先に休んでいて” 何時もの文面だったから、やっぱりな。と思っただけで.....。 「俺、泊っていっても大丈夫?・・・もし迷惑でなければ、だけど。」 「................ぇ」 「あ、ゴメン、・・・ダメだよな?いきなり・・・」 友田さんが焦るのが分かって、僕は思い切り首を振った。 「違うんです。あの、・・えっと、良かったな、と思って.......」 「あ・・・そう?」 「はい、やっぱり今日は、一人きりになりたくないっていうか....」 「うん、だよな?!お母さんが戻ってきたら帰るつもりだったけど、俺も今夜は佐々木くんを一人にするのは心配で。」 僕たちは、少しだけ照れくさかったけど、顔をみて安心した。 お互いに気持ちが一緒だったのかと思うと嬉しい。 「あっ、でも・・・布団が、ないんだった。うちに誰かが泊まるなんて初めてだから。」 「そ、そうか・・・まあ、ベッドの端っこで寝させてくれたらいいよ。佐々木くんのベッドはセミダブルだし、なんとかなるだろ。」 「・・・はい。」 意外な展開になって嬉しいけど、なんだか胸の奥の方がドキドキいって跳ねるのはどうしてだろう。

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